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ワイン・コラム 第129回 ロワール地方の話 ディディエ・ダギュノー編
今回ご紹介するディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauは、世界で最も高価なソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancの白ワインを造る造り手です。
「ロワールの野生児」
「Enfants terribes恐ろしき子供たち」
など、畏敬を込められた数々の呼び名を持つディディエ・ダギュノー氏。
素晴らしく品質の高いワインは、造り手の風貌も相まって、カリスマ的な人気を博しています。
ご夫婦で(2005年)
ドメーヌは、ロワール川上流域、プイィ・フュメPouilly-Fuméのアペラシオン内にあります。このアペラシオンでは、ソーヴィニヨン・ブランによる白ワインのみが生産されています(ディディエ・ダギュノーは、ブラン・フュメ・ド・プイィBlanc Fumé de Pouillyという表記を用いています。)。
一般的なプイィ・フュメは、冷涼な気候を反映した、柑橘類やフレッシュ・ハーブの香りを持爽やかな白ワインですが、ディディエ・ダギュノーのワインは別格です。
やはり冷涼な気候を感じさせる豊かな酸味を備えていますが、上級キュヴェからはトロピカル・フルーツ系の香りも感じられ、樽から来るロースト香もあります。そして味わいには塩気も感じられ、強いミネラルの芯が通っています。ワインが若いうちは飲むのをじっとこらえて、熟成させてから飲むべき数少ないプイィ・フュメです。
この造り手のトップ・キュヴェ的なワインは、石の写真のラベルが印象的なシレックスSilexです。初めてこのワインを飲んだ時のことは今でもよく覚えています。芸術の域。大地からぶどうの樹が吸い上げたエッセンスを口に含んでいるような、スケールの大きさを感じさせてくれるワインでした。
その他のキュヴェとして、
ブラン・フュメ・ド・プイィ Blanc Fumé de Pouilly
ビュイッソン・ルナール Buisson Renard
ピュール・サン Pur Sang
サンセール ル・モン・ダネ シャヴィニョール Sancerre Le Mont Damné Chavignol
ジュランソン レ・ジャルダン・ド・バビロン Jurançon Les Jardins de Babylon
などがあります。いずれも素晴らしいワインです。
そして、自根(フィロキセラというぶどうの根に寄生する害虫対策として、アメリカ系のぶどうの台木に接ぎ木されていない)のソーヴィニヨンから造られるアステロイドAstéroïdeがあります。
私はこのドメーヌを、2005年に訪問させて頂きました。現在では世界中で360以上の造り手を訪問させて頂いておりますが、約束の時間に遅れることはまずなく、大体早く着くのですが、この造り手に限り、道に迷い約束の時間に遅れてしまいました。しかし笑顔で、ワインを試飲させて頂いたのを覚えております。
残念ながらディディエ・ダギュノー氏は2008年に飛行機事故で亡くなってしまいましたが、彼が造ったワインはこれから先、何年、何十年と優美に熟成を続けて行くことでしょう。そしてドメーヌは、現在は息子さんたちが引き継ぎ、運営されています。
ソーヴィニヨン・ブランというぶどう品種のひとつの頂点を経験したい方、強いミネラル感を持つワインを経験したい方、純粋においしいワインを飲みたい方...是非、ある程度の熟成を経た(できれば8年以上)ディディエ・ダギュノーのワインを飲んでみてください。ワインに対する新たな視点ができるかもしれません。
Clos Yは、7月14日のワイン祭りのラインナップに、ディディエ・ダギュノーのブラン・フュメ・ド・プイィ2004も含めております。ご興味のある方はご連絡ください。
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ワイン・コラム 第128回 アルザス地方の話 ドメーヌ・ヴァインバック編
造り手を訪問する時は基本的に車で行きますので、飲酒運転をしないように、ということもありますが、多い場合には30種類近くのテイスティングがありますので、全て飲み込んでいられないというのが主な理由です。
大抵の場合は口に含んだワインを吐き出すことに抵抗はありませんが、時にどうしても飲んでしまいたくなる、壮絶に魅力的なワインがあります。
今回ご紹介するドメーヌ・ヴァインバックDomaine Weinbachは、そのような数少ない極上のワインを生みだす造り手です。
この造り手は、フランス北東部に位置するアルザスAlsace地方でぶどうの栽培とワイン造りを行っています。この地方のみならず、フランス全土で見ても屈指のワイン生産者です。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2008年の9月のことでした。ドメーヌはアルザス地方南部の重要な町コルマールColmarの北西約10km、ケゼルスベールKaysersbergの東側、ぶどう畑の真っただ中、素晴らしいワインを生みだす特級畑シュロスベルクSchlossbergの麓に位置しています。
アルザス地方でも、ブルゴーニュ地方のように偉大なワインは偉大な特級畑から生まれることがほとんどです。シュロスベルクという畑は複数の生産者により所有されておりますが、ヴァインバックは最大規模の所有者となっています。
シュロスベルク 南向きの斜面。
ドメーヌではたくさんのワインを試飲させて頂きましたが、強く印象に残っているのはこのシュロスベルク畑のリースリングのワインです。
ブルゴーニュ地方では、一般的にはひとつの畑からひとつのワインが生まれます(例えば、シャンベルタンと言う畑からはシャンベルタンという赤ワイン、モンラシェという畑からはモンラシェという白ワイン、など。)。しかし、アルザス地方では、ドイツのように、ひとつの畑から複数のワインが造られます。
今回、シュロスベルクを例にしてみると、まずはアルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリングAlsace Grand Cru Schlossberg Rieslingという辛口白ワインがあります。絵に描いたような良質リースリングで、香り高く、果実味、酸味共にしっかりしていて、密度の高い、長期熟成に耐えるワインです。
それから、同じ畑の中の、樹齢の古い区画のぶどうによるキュヴェ・サント・カトリーヌ リネディ!Cuvée Sainte Cathrine L’Inédit !というキュヴェがあります。
そして甘口ワインも造られます。アルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリング ヴァンダンジュ・タルディヴAlsace Grand Cru Riesling Vendanges Tardives。いわゆる遅摘みワインで、甘味と酸味のバランスが良く、ミネラル感もしっかりとしている、世界的に見てもあまり他に類を見ないワインです。
さらに凝縮感の強いワインが、貴腐ワインであるセレクション・ド・グラン・ノーブルSélection de Grains Noblesです。粒選りで収穫されたぶどうによる、偉大なワインです。世界中のワインはあらゆる人に開かれていて(生産量と価格の問題を除けば)、楽しむべき飲み物だと思いますが、このような次元のワインは、神酒と言いますか、対峙すると自然と背筋が伸び、その世界に引きずり込まれて行くような、特別感のある液体でした。
さらにその上を行くのが、カンテッサンス・ド・グラン・ノーブルQuintessence de Grains Noblesです。これもシュロスベルクの畑のぶどうから、しかし特別な年にだけ造られるワインです。このワインは、まさに口に含めば飲み込まずにいられないワインです。もう、どうしたらいいのでしょう。ただただ偉大なテロワール、そして造り手に感動するのみです...
アルザス地方のワインは、フランスワインの中でも人気の高いワインだと思いますが、51あるアルザス・グラン・クリュの特徴も含め、まだ深く追求されていない部分が多いように思われます。
軽やかでお手頃なワインから、時にはこのヴァインバックのように偉大なワインまで、これからの季節は特にお楽しみただけることでしょう。是非試してみることをお勧めします!
Clos Yは7月7日のレストラン講座のテーマを「アルザス」とし、選りすぐったアルザス・ワインを南青山「アンカシェット」の洗練されたフランス料理とお楽しみ頂きます。ドメーヌ・ヴァインバックのグラン・クリュ シュロスベルク ヴァンダンジュ・タルディヴも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第127回 ロワール地方の話 ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ編
この地方の西部、大西洋近くにはナントNantesという大きな町があります。そこからロワール川をさかのぼる形で東に進むと、トゥールToursという大きな町があります。
ナント周辺では主にミュスカデMuscadetというぶどうが栽培されていて、酸味がしっかりとした、爽やかな白ワインが造られています。
トゥール周辺では、主にシュナン・ブランChenin Blancというぶどうが栽培されていて、ミネラル感の強い辛口から豊かな味わいの甘口、さらにはスパークリング・ワインまで、多彩な白ワインが造られています。
そのトゥールから南東に50kmほどいったところに、ドメーヌ・デ・ボワ・ルカDomaine des Bois Lucasがあります。
2002年が初ヴィンテージのこの造り手は、日本人女性が当主で、自ら栽培、醸造を担当しています。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2005年の3月のことです。その際に試飲させていただいたソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancに私は衝撃を受けました。
当時私はボルドーBordeauxに住んでいて、グラーヴ地区のシャトーで収穫から醸造まで経験しました。ボルドーのソーヴィニヨン・ブランの特徴はある程度把握しておりましたし、ロワール地方のソーヴィニヨン・ブラン、例えばサンセールSancerreやプイィ・フュメPouilly-Fuméの特徴も(ディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauのような例外的なワインも含めて)把握していたと思います。
しかしこの造り手のソーヴィニヨン・ブランは、今までに経験してきたどのようなソーヴィニヨン・ブランとも異なる、まさに驚くべきものでした。
熟したエキゾチックなフルーツ、ボワゼ、ミネラルが一体となった複雑な香り。ボルドーともロワールとも、新世界、例えばニュージー・ランドのソーヴィニヨン・ブランとも違う、個性的な香りです。味わいは果実味に厚みがあり、酸味もしっかり。余韻が長く続いていきます。
偉大なワイン、というべき完成度ですが、硬さが無くしなやかで、優しい感じです。このワインは、補糖もせず、限りなくナチュラルに造られているのですから、原料となるぶどうはどれほど素晴らしいものかと思いました。
栽培はビオディナミを採用しているようです。そして収穫量が少ない!良いワインを造るために、ぶどうの収穫量はあまり品質と関係が無い、と言う造り手もいますが、私はぶどうの収穫量はワインの品質に直接関係してくる重要な要素であると思っております(特に赤ワインの場合)。
しかしこれほどのワインを、まだ新しい(言わば経験の浅い)造り手が、しかも偉大なテロワールと認識されてこなかった土地(アペラシオンはトゥーレーヌTouraine)で造ってしまうのは本当にすごいことだと思います。
世界的に名の知られている銘醸地ではないところで、真新しい造り手がいきなり偉大なワインを造る。このようなことはそうあることではないと思います。しかし、あるにはある。そのようなワインを見逃さずに、今後もご紹介していけるようにしたいと思います。
Clos Yは、6月2日のレストラン講座のテーマを「ロワール」とし、ロワール地方から厳選した素晴らしいワインをそれに合わせた料理とお楽しみ頂きます。ボワ・ルカのソーヴィニヨン・ブラン2006のキュヴェ違い水平を経験頂けます!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第126回 サヴォワ地方の話 ビュジェイ セルドン編
アルプス山脈の麓、スキーを愛する人々には重要なところですが、ワイン愛好家の関心を引くことは少ないようです。
しかしもちろん、この地でも素晴らしいワインが造られています!
今回ご紹介するのは、世界屈指の偉大なワイン、とは言えないかもしれませんが、多くの人に愛されるような、やや甘いロゼのスパークリング・ワイン産地セルドンCerdonです。
アペラシオンはビュジェイBugey、地区はセルドンCerdon。ビュジェイは長らくV.D.Q.S.というカテゴリーに属していましたが、2009年に晴れてA.O.C.に昇格しました。
セルドンは、上記のとおりやや甘い、ロゼのスパークリング・ワインです(土地の名前がワインの名前になっています。)。このワインを造るために認められている土地は僅か約130ha。ガメイGamayとプルサールPoulsard、2種類の黒ぶどうから造られます(プルサールは栽培面積が少ないので、中にはプルサールを使わずにガメイ100%のキュヴェもあります。)。
小さな産地なので、ワインの生産量もそれに応じて少ないです。フランスでもあまり見かけることはありませんが、現在日本に複数銘柄が輸入されております。
私は2013年の2月に、アラン・エ・エリー・ルナルダ・ファーシュAlain et Elie Renardat-Fâcheという造り手さんを訪問しました。
ドメーヌが位置するのはメリニャMérinatという小村で、山間にあるので坂道が多いですが、村の端から端まで5分もあれば歩いてしまうことができるほどの、村人全員が顔見知りなのだろうな、というところです。
Mérignat。
雪がちらつく寒い日、ストーブの前で試飲です。この造り手は、以前はシャルドネによる白ワインも造っていましたが、現在はスパークリング・ワインだけを生産しています。
2種類のセルドンを比較しました。ひとつはガメイ70%、プルサール30%のキュヴェ。もうひとつはガメイ100%のキュヴェ。どちらもロゼのやや甘いスパークリング・ワインです。どちらも素直においしいワインでしたが、個人的にはより酸味のしっかりとしたプルサールを用いたほうが好みでした。
セルドン用のプルサールは僅か6haほどしかないようですので、プルサールを用いたセルドンはとても希少と言うことができると思います。
せっかくなので、やや専門的になりますが、醸造のお話を。セルドンは「アンセストラル方式」という方法で造られます。簡単に説明しますと、まずは黒ぶどうをロゼ・ワインを造るようにアルコール発酵させます。アルコール度数が6%になったところでフィルターをかけて一度瓶詰めします。続いて瓶内で、アルコール度数が7%程度になるまで再びアルコール発酵を行います。この時に、二酸化炭素がワインに溶け込んでスパークリング・ワインとなります。瓶内でアルコール度数が7%程度になったら瓶を冷却して酵母の活動を止め、アルコール発酵を止めます。特殊な装置を使ってガスが逃げないように中身を空けてフィルターをかけ、酵母等を取り除いて再び瓶詰めます。こうしてできるセルドンは美しい、やや濃いめのロゼ色、アルコールは低く、その分ぶどう由来の天然の甘味が(残糖約60g/l)残る、やや甘口のスパークリング・ワインになるわけです。
アペリティフに、デザートに。単体でも楽しめる美味しいワインです。セルドン、試してみてはいかがでしょうか?
Clos Yは、5月15日に行うレストラン講座で、プルサールを用いたセルドンが登場します。ご興味のある方はご連絡ください。
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ワイン・コラム 第125回 ブルゴーニュ地方の話 アルマン・ルソー編
この名を聞くだけで気持ちが高まるワイン愛好家は少なくないことでしょう。ジュヴレイ・シャンベルタン村Gevrey-Chambertinに居を構えるこの造り手は、同村のみならず全ブルゴーニュを代表する造り手のひとりです。
グラン・クリュGrand Cruを豊富に所有し、生産するワインの大半がプルミエ・クリュ以上という並々ならぬ生産者です。
ワインはもちろん畑により異なりますが、色は濃く、凝縮感があり、豊かで、どこか獣を思わせるアニマル香が感じ取れることがあります。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2004年のことでした。私はひとりで訪問の予約を入れましたが、外国からのワインのバイヤーなどとグループで案内して頂きました。
早速樽熟成庫で試飲の始まりです。まだ樽熟成中の2003ヴィンテージを試飲させて頂きました。
記録的な猛暑に見舞われた2003年。もともと力強いタイプのワインが、例年よりさらに凝縮していたようです。
通常、試飲は軽いものから始まり、重いものへと移っていきます。ワインの格で言うと、ブルゴーニュの場合、村名(ヴィラージュ)→1級(プルミエ・クリュ)そしてグラン・クリュ(特級)という流れです。
しかし、この訪問では、リュショット・シャンベルタンRuchottes-Chambertin(特級)
→クロ・ドゥ・ラ・ロシュClos de la Roche(特級)
→マジ・シャンベルタンMazis-Chambertin(特級)
→シャルム・シャンベルタンCharmes-Chambertin(特級)
ときて、それから2つのプルミエ・クリュ、ラヴォー・サン・ジャックLavaux Saint-Jacquesとクロ・サン・ジャックClos Saint-Jacquesという流れでした。
これは、特にクロ・サン・ジャックがプルミエ・クリュでありながらグラン・クリュに比肩するテロワールとしての力を秘めているためと思われます。
この日の私には、クロ・ドゥ・ラ・ロシュの豊かな果実味とバランスの良い酸味、なめらかなタンニンと長い余韻が一番印象に残りました。
さて、クロ・サン・ジャックの後は、いよいよジュヴレイ・シャンベルタン村が誇る2トップのグラン・クリュの登場です。
シャンベルタン クロ・ド・ベズChambertin Clos de Bèze
そして
シャンベルタンChambertin
どちらも流石の内容。まだ樽熟成中の、言わば「未完成品」ながら心を打つ素晴らしいワインでした。
ジュヴレイ・シャンベルタン村には、ドゥニ・モルテDenis Mortetやクロード・デュガClaude Dugatなど、ブルゴーニュでもトップ・クラスの造り手が複数存在しています。
それらの名声ある造り手さんも、次の世代への交代が進んでいます。新しくブルゴーニュの世界へ足を踏み入れる方はもちろん、古くからのブルゴーニュ愛好家で、最近アルマン・ルソーなどを飲んでいない方も、近年のヴィンテージを試してブルゴーニュの「今」を感じてみてはいかがでしょうか?
Clos Yは5月12日のレストラン講座のテーマを「ブルゴーニュ」とし、ブルゴーニュの良質なワインを、それに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。アルマン・ルソーの「レ・カズティエLes Cazetiers2006」も登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第124回 ぶどう品種の話 パロミノ編
スペイン南部、アンダルシア地方、ヘレスJerez(ヘレス・デ・ラ・フロンテラJerez de la Frontera)の町の周辺で造られるワインで、スペインではヘレスと呼ばれています。日本ではその英語での呼び名であるシェリーが定着しています。
シェリー自体は世界的に有名でも、その原料であるぶどう品種はあまり知られていないと思います。
ペドロ・ヒメネスPedro XimenezやモスカテルMoscatelなどの例外がありますが、シェリーのほとんどはパロミノPalominoという白ぶどうからできています。
シェリーは世界中で愛されていますが、パロミノはシェリーの原料以外であまり見かけることがありません。
パロミノの原産地はほぼ確実にアンダルシア地方とされています。パロミノの栽培は、暖かく乾燥した気候に適しており、その果汁には糖分と酸味が少ないという特徴があります。このため、一般的なワインに醸造してもとても上質なワインになることは難しいのですが、「アルバリサalbariza」という土壌で栽培されるパロミノからは上質なシェリーが生まれます。
アルバリサはヘレス・デ・ラ・フロンテラJerez de la Frontera、サンルカール・デ・バラメーダSanlúcar de Barrameda、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアEl Puerto de Santa Mariaの3つの町の間に見られる真っ白な土壌で、石灰の含有量が多く高い保水性を備えています。
このアルバリサ土壌で栽培されたパロミノのぶどうは特に上質とされ、その果汁から造られるシェリーは世界屈指の偉大なワインになる可能性を秘めています。
Jerezの畑。
実際、シェリーは世界的に見てもコスト・パフォーマンスの高い、素晴らしいワインだと思います。
すっきりした辛口タイプのフィノFinoから、重厚で余韻がとてもとても長いオロロソOlorosoまで、シェリーというひとつのワインでありながら世界でも類を見ないバラエティの広さがあります。
フィノは良く冷やして、タパス全般と楽しむことができると思います。鰯のマリネなど、一般的なワインと合わせることが難しい料理とも相性が良いです。オロロソは世界的に見ても最も余韻の長いワインのひとつと言えるでしょう。ソレラ・システムと言う独自の熟成方法により、長い樽熟期間を経たワインも含まれるこのワインは、酸化熟成により複雑な風味を備えています。しばしば紹興酒のフレイヴァーとの共通点も指摘されますが、このような重厚なワインは煮込んだ肉料理や濃厚な中華料理と合わせても楽しむことができると思います。
このような多彩なワインを生みだすパロミノ。注目されることは少ないですが、覚えておいて損は無いぶどう品種のひとつだと思います。
Clos Yは4月24日のレストラン講座のテーマを「シェリー~知られざる真価~」とし、5種類のシェリーをそれに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。中には最低でも30年以上の熟成を経たワインで構成される希少なシェリーも含まれております。ご興味がございましたら是非ご参加ください。
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ワイン・コラム 第123回 オーストラリアの話 ソレンバーグ編
少量生産のため希少、さらに超高価で様々な意味で入手困難なワインです。カリフォルニア州にそのような銘柄が複数存在していますが、もちろんアメリカ以外の国にも存在しています。
今回ご紹介するソレンバーグSorrenbergのワインも、カルト・ワインと呼ばれています。
ソレンバーグはオーストラリアAustralia、ヴィクトリア州Victoriaの北東部に位置するビーチワースBeechworthという地区に居を構えるワイナリーです。
ワイナリー入口
このビーチワースという小さなワイン産地には、ジャコンダGiaconda、カスターニャCastagna、サヴァテールSavaterreなど高品質なワインを造る造り手が集中しています。
ソレンバーグもこの地区を代表する重要な造り手のひとつです。有機栽培で育てた健全なぶどうを、なるべく人の手を加えずに上質なワインにしています。
これはピノ・ノワール
この造り手を代表する銘柄が、ガメイGamayです。フランス以外でほとんど見かけることが無い、カジュアルなイメージを持つこのぶどう品種が、オーストラリアの奥地(?)でひっそりと栽培され、それがカルト・ワインになっているのはとても興味深いことです。
カルト・ワインだけに現地でもなかなか見つかりません。ソレンバーグのHPにオーダー・フォームがありますが、ガメイはunavailableとなっています(2013年3月15日現在)。引き合いの強さが伺い知れます。
ビーチワースの町のレストランのメニューを見て歩き、ようやくこのガメイが置いてあるお店を見つけました!
のどかな田舎のレストラン
カルト・ワインと言っても一部のカリフォルニア・ワインのような値段は付けられておりません。また、凝縮感を追い求めた結果の少量生産のワインでもありません。あくまでもナチュラルに造られた、言わば自然派ブルゴーニュ的ワインです。とは言えボージョレBeaujolaisのガメイとは様子が違います。と言うより、このガメイをブラインドで飲んでボージョレを思い浮かべる人はほとんどいないのではないかという、構成のしっかりとした密度の高いワインです(ピノ・ノワールが10%ほどブレンドされています。)。
このワイン、2012年までは日本へ輸入されていましたが、現在はもう入ってきておりません。私たち日本のワイン愛好家にとって真に手の届かないカルト・ワインになってしまいましたが、このようなワインを現地で飲むことこそ、旅の醍醐味ですよね。
カルト・ワインに限らず、日本で手に入れることができない素晴らしいワインが世界中のワイン産地に隠れています。現地を訪れる際には、有名なワインではなくそのようなワインを試してみるのも良い思い出になることでしょう。
Clos Yは4月7日のレストラン講座のテーマを「オーストラリア」とし、極上のワインをそれに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。ソレンバーグのガメイも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第122回 フランス、プロヴァンス地方の話 ドメーヌ・ヴァンスリーヌとラミラル編
今回は新鮮な情報をお届けいたします。
まずは南仏、プロヴァンス地方のニースNiceから出発です。
ニースに行かれたことがある方は少なからずいらっしゃると思いますが、ニースとワイン産地を結び付けて考える方はほとんどいらっしゃらないことでしょう。
ニースの町のすぐそばに、ベレBelletというA.O.P.のワイン産地があります。
全体で約50haほどのぶどう畑しかないこのアペラシオンは、フランスのワイン産地の中でも極小と言えますので、ご存じでない方が多いのも無理が無い話です。
ちょうどバタイユ・デ・フルールBataille des Fleurs(フラワー・パレード)で浮き立つニースを北西に抜け、山道を登っていくと25分ほどでベレの畑ゾーンに着きます。
小さなアペラシオンなので、造り手さんも密集しています。今回訪問させていただいたのはドメーヌ・ヴァンスリーヌDomaine Vincelineです。
2006年創立のこのドメーヌは、僅か0.8haの畑を所有しています。私が今まで訪問させていただいた造り手さんの中で最も規模の小さな造り手さんです!
小さなプレス機
ベレは白、ロゼ、赤の生産が認められていますが、このドメーヌは白と赤のみを造っています。白はロールRolleという白ぶどう品種100%で造られる、フレッシュでフルーティなタイプ。このロールはヴェルメンティーノVermentinoと全く同じ品種で、この地ではこのように呼ばれています。
赤は地場品種のフォル・ノワールFolle Noireを主体に造られます。ベレ以外ではまず耳にすることの無いぶどう品種です。2011は少しジャム様の熟した赤黒い果実の香りに少し動物っぽいニュアンスが混じり、スパイスの要素も感じられます。味わいは果実味が主体で酸味は少し穏やかで、タンニンが少し多く、余韻にボワゼ(樽)が現れ少し長く続きます。ある程度長期の熟成に耐えられそうな構造をしていました。
これらのぶどうが育つ畑は標高約230mのところに位置し、土壌は砂質で少し大きめの小石が点在しています。風の吹き抜ける谷間に面していて、昼夜の温度差が大きいとのことです。
このワイン産地に来る度に思いますが、とても美しい眺めです!
ニースから近いので、興味のある方は行かれてみてはいかがでしょうか。
この日はニースとカンヌの間の、ジュアン・レ・パンという小さな町に泊まりました。この街にはラミラルL’Amiralという素敵なレストランがあります。
海に面したこの町、夏は観光客で賑わうと思うのですが、2月は閑散としていました。落ち着いて食事ができます(笑)
前菜はじゃがいものグラタン黒トリュフのスライスがけ、メインはTurbotチュルボというカレイ科の魚をお願いしました。コースの選択肢としては無かったのですが、尋ねてみたところコースに組み込んでくれました。感謝です!
ワインはプロヴァンスのロゼ!このお店、ワインの種類はあまり豊富では無いのですが、オーダーしたワインが品切れだったようで、同じ価格で少し良いものを出してくれました。良心的なお店です。
ワインも料理もおいしかったのですが、強いインパクトを残しているのはデザートでした。今でも鮮明に思い出すことができます。今回の旅では3つ星レストランなどにも行ったのですが、デザートに関してはこのお店が一番でした!
お皿にアーモンド・パウダーを使っているような、少しさっくりとした食感のガトー(クレープ?)を敷き、その上に皮も入っているプラムのシャーベットを乗せます。そのシャーベットの周りをメレンゲで覆い、表面をさっと焙ってミントを乗せて完成です。
甘味は強すぎない程度にしっかりしているのですが、はちみつを使っているこのデザート、砂糖ではないはちみつの甘味、香りが個性的で、私はすっかり気に入ってしまいました。
本当においしかったです。レストラン講座で、腕利きのパティシエにお願いして、いつか再現できればと思っております!
プロヴァンス地方はフランスのワイン産地の中で、高品質ワインを愛する人があまり注目しない産地であるのが現状です。実際この地方で造られるワインのほとんどは軽く、フルーティなロゼで、それはそれで悪くないのですが大変魅力的とは言い難いです。しかし、中には極上のワインも少量ですが存在しています!
それにつきましては、またこのコラムや講座でご紹介していきたいと思っております。
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ワイン・コラム 第121回 ボルドー地方の話 シャトー・ラグランジュ編
ボルドー地方には100を超えるグラン・クリュのシャトーが存在しておりますが、メドックMédoc地区、サンテミリオンSaint-Emilion地区など、地区により格付けの形態が異なっています。
ボルドー地方の格付けの中で最も有名なのは、1855年にナポレオン3世がボルドーの商工会議所に命じて作らせたメドック地区の格付けでしょう。ボルドー地方には1万を超えるシャトー(ワインの造り手)がいると言われておりますが、この格付けではその中で僅か61のシャトーがグラン・クリュに選ばれました。まさにトップの一群と言えると思います。
今回ご紹介するシャトー・ラグランジュChâteau Lagrangeは、栄えあるメドック地区の格付けにおいて第3級に選ばれたグラン・クリュです。
このシャトーの特徴として、所有者が日本の企業サントリーであるということが挙げられます。私は2004年にこのシャトーを訪問させて頂きましたが、案内してくださったのは椎名敬一氏、もちろん日本人でした。やはり日本語での会話は楽です!
1855年の格付けは、当時のワインの流通価格を参考に定められたようです。2013年となっては158年前のことですから、その間に格付けにそぐわなくなった(良い意味でも、悪い意味でも)シャトーももちろんあります。
シャトー・ラグランジュは、良い意味で3級という格付けに合っていないのではないかと思います。サントリーがシャトー・ラグランジュを購入したのが1983年。当時は輝かしい評価が失われていたようですが、再生のための投資を続け、今日では3級、もしくは2級並みの安定した評価を受けるようになっています。
実際ワインの品質は素晴らしいと思います。グラン・ヴァンであるシャトー・ラグランジュ、例えば最近の2007は偉大なヴィンテージではなかったにもかかわらず色が濃く、凝縮感があり、サン・ジュリアンの典型的なスタイルと言えるようなカシス等黒系果実の香りに良質な樽熟成から来る香ばしいロースト香が調和しています。このグラン・ヴァンの品質を支えているのがセカンド・ワインのレ・フィエフ・ド・ラグランジュLes Fiefs de Lagrangeの存在です。1985年に導入されたこのセカンド・ワインは、若い樹のぶどう(=グラン・ヴァンであるシャトー・ラグランジュの品質に見合わないと判断されたぶどう)が使われています。このように、やや品質が劣るぶどうを他のワインに回すことによって、シャトー・ラグランジュの品質を向上させることができるわけです。さらには、ラグランジュの名を名乗ることのない第3キュヴェも存在しているようです。そのため、セカンド・ワインと言えどもレ・フィエフ・ド・ラグランジュも良質なワインに仕上がっています。
最後に、ソーヴィニヨン・ブランを主体に造られる白ワインレ・ザルム・ド・ラグランジュLes Arums de Lagrangeも素晴らしい品質であることを付け加えておきます。
Clos Yは、3月10日のレストラン講座のテーマを「ボルドー」とし、希少なシャトー・ラグランジュの1962等をお楽しみ頂きます。1962の水平比較としまして、グラン・クリュのシャトー・ラ・トゥール・カルネ1962も登場いたします。ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第120回 スペインの話 ボデガス・アユソ編
私は小学生の頃、パン工場やガラス工場に学校の社会科見学で行った記憶があります。
最近は「大人の工場見学」という名の下、ビール工場の見学などが人気のようですね。
私がワイン生産者を訪問させて頂く場合は、ボルドーのシャトーやブルゴーニュのドメーヌなど、例え規模が大きくても「工場」というような印象を受けるところにはほとんど行ったことがありません。
大規模なところで印象に残っているのは、オーストラリアに数軒あります。カンガルーのラベルのワインで有名なカセラCasellaや、川の水を利用して灌漑を行い大規模にワインを造るリヴァー・ランド地区のワイナリーなど、その規模の大きさにはびっくりさせられました。
今回ご紹介させて頂くボデガス・アユソBodegas Ayuso、スペインのワイナリーですが規模が大きいところです。
スペインで最大、そして世界でも最大級のワイン産地、ラ・マンチャLa Manchaのワインを造るこの造り手は、スペインのほぼ中央、少し南に位置しています。
ラ・マンチャは広大なワイン産地ということだけあって、大規模に、大量生産型のワインが多く造られるところです。大規模、大量生産とはいえ自然の賜物であるワインですので、原料であるぶどうが生まれ育った土地を表現しておりますが、「嗜好品としてのワイン」愛好家にはあまり注目されることが無かった産地です。
そんなラ・マンチャにおいて、高品質なワインで世の注目を集めたのがボデガス・アユソです。高品質なぶどうから造った上質なワインをじっくりと熟成させたエストーラEstolaシリーズは、その品質の高さにおいて評価されました。コスト・パフォーマンスの高さも見逃せないポイントです。
実際にワイナリーに着いてみると、まずはその入り口で驚かされました。巨大なタンクがそびえ立ち、2008年当時私が訪問させていただいたヨーロッパのどのワイナリーよりも「巨大さ」を伺わせるものでした。
内部も巨大なコンクリート・タンクや
フル稼働の瓶詰めライン
広いストック・スペース
があり、ときおりすぐ脇を通過するフォーク・リフトに気をつけながらの訪問でした。
肝心のワインの品質はというと...いや、流石ですね、経験豊富なワイン評論家が高く評価するだけありまして、見事なワインが造られていました。
実際、最高級のグラン・レセルバGran Reservaのものは何年もの樽熟成を経てからようやく瓶詰めされ、さらに数年の熟成を経てようやく出荷されます。そのようなワインを造る、と決めた時点で、造り手さんの「品質へのこだわり」が垣間見えるように思います。
素晴らしいワインは有名なワイン産地ではないと生まれないというわけではありません。「有名では無い産地の素晴らしいワイン」を見つけるのは大変ですが、そのようなワインにこそワインの楽しみが詰まっているのかもしれません。
Clos Yは2月6日のレストラン講座のテーマを「スペイン」とし、広大なスペインから選りすぐった上質なワインをそれに合わせた特別料理と共にお楽しみ頂きます。ご興味がございましたらご連絡ください。
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