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ワインコラム Archive
ワイン・コラム 第126回 サヴォワ地方の話 ビュジェイ セルドン編
アルプス山脈の麓、スキーを愛する人々には重要なところですが、ワイン愛好家の関心を引くことは少ないようです。
しかしもちろん、この地でも素晴らしいワインが造られています!
今回ご紹介するのは、世界屈指の偉大なワイン、とは言えないかもしれませんが、多くの人に愛されるような、やや甘いロゼのスパークリング・ワイン産地セルドンCerdonです。
アペラシオンはビュジェイBugey、地区はセルドンCerdon。ビュジェイは長らくV.D.Q.S.というカテゴリーに属していましたが、2009年に晴れてA.O.C.に昇格しました。
セルドンは、上記のとおりやや甘い、ロゼのスパークリング・ワインです(土地の名前がワインの名前になっています。)。このワインを造るために認められている土地は僅か約130ha。ガメイGamayとプルサールPoulsard、2種類の黒ぶどうから造られます(プルサールは栽培面積が少ないので、中にはプルサールを使わずにガメイ100%のキュヴェもあります。)。
小さな産地なので、ワインの生産量もそれに応じて少ないです。フランスでもあまり見かけることはありませんが、現在日本に複数銘柄が輸入されております。
私は2013年の2月に、アラン・エ・エリー・ルナルダ・ファーシュAlain et Elie Renardat-Fâcheという造り手さんを訪問しました。
ドメーヌが位置するのはメリニャMérinatという小村で、山間にあるので坂道が多いですが、村の端から端まで5分もあれば歩いてしまうことができるほどの、村人全員が顔見知りなのだろうな、というところです。
Mérignat。
雪がちらつく寒い日、ストーブの前で試飲です。この造り手は、以前はシャルドネによる白ワインも造っていましたが、現在はスパークリング・ワインだけを生産しています。
2種類のセルドンを比較しました。ひとつはガメイ70%、プルサール30%のキュヴェ。もうひとつはガメイ100%のキュヴェ。どちらもロゼのやや甘いスパークリング・ワインです。どちらも素直においしいワインでしたが、個人的にはより酸味のしっかりとしたプルサールを用いたほうが好みでした。
セルドン用のプルサールは僅か6haほどしかないようですので、プルサールを用いたセルドンはとても希少と言うことができると思います。
せっかくなので、やや専門的になりますが、醸造のお話を。セルドンは「アンセストラル方式」という方法で造られます。簡単に説明しますと、まずは黒ぶどうをロゼ・ワインを造るようにアルコール発酵させます。アルコール度数が6%になったところでフィルターをかけて一度瓶詰めします。続いて瓶内で、アルコール度数が7%程度になるまで再びアルコール発酵を行います。この時に、二酸化炭素がワインに溶け込んでスパークリング・ワインとなります。瓶内でアルコール度数が7%程度になったら瓶を冷却して酵母の活動を止め、アルコール発酵を止めます。特殊な装置を使ってガスが逃げないように中身を空けてフィルターをかけ、酵母等を取り除いて再び瓶詰めます。こうしてできるセルドンは美しい、やや濃いめのロゼ色、アルコールは低く、その分ぶどう由来の天然の甘味が(残糖約60g/l)残る、やや甘口のスパークリング・ワインになるわけです。
アペリティフに、デザートに。単体でも楽しめる美味しいワインです。セルドン、試してみてはいかがでしょうか?
Clos Yは、5月15日に行うレストラン講座で、プルサールを用いたセルドンが登場します。ご興味のある方はご連絡ください。
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ワイン・コラム 第125回 ブルゴーニュ地方の話 アルマン・ルソー編
この名を聞くだけで気持ちが高まるワイン愛好家は少なくないことでしょう。ジュヴレイ・シャンベルタン村Gevrey-Chambertinに居を構えるこの造り手は、同村のみならず全ブルゴーニュを代表する造り手のひとりです。
グラン・クリュGrand Cruを豊富に所有し、生産するワインの大半がプルミエ・クリュ以上という並々ならぬ生産者です。
ワインはもちろん畑により異なりますが、色は濃く、凝縮感があり、豊かで、どこか獣を思わせるアニマル香が感じ取れることがあります。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2004年のことでした。私はひとりで訪問の予約を入れましたが、外国からのワインのバイヤーなどとグループで案内して頂きました。
早速樽熟成庫で試飲の始まりです。まだ樽熟成中の2003ヴィンテージを試飲させて頂きました。
記録的な猛暑に見舞われた2003年。もともと力強いタイプのワインが、例年よりさらに凝縮していたようです。
通常、試飲は軽いものから始まり、重いものへと移っていきます。ワインの格で言うと、ブルゴーニュの場合、村名(ヴィラージュ)→1級(プルミエ・クリュ)そしてグラン・クリュ(特級)という流れです。
しかし、この訪問では、リュショット・シャンベルタンRuchottes-Chambertin(特級)
→クロ・ドゥ・ラ・ロシュClos de la Roche(特級)
→マジ・シャンベルタンMazis-Chambertin(特級)
→シャルム・シャンベルタンCharmes-Chambertin(特級)
ときて、それから2つのプルミエ・クリュ、ラヴォー・サン・ジャックLavaux Saint-Jacquesとクロ・サン・ジャックClos Saint-Jacquesという流れでした。
これは、特にクロ・サン・ジャックがプルミエ・クリュでありながらグラン・クリュに比肩するテロワールとしての力を秘めているためと思われます。
この日の私には、クロ・ドゥ・ラ・ロシュの豊かな果実味とバランスの良い酸味、なめらかなタンニンと長い余韻が一番印象に残りました。
さて、クロ・サン・ジャックの後は、いよいよジュヴレイ・シャンベルタン村が誇る2トップのグラン・クリュの登場です。
シャンベルタン クロ・ド・ベズChambertin Clos de Bèze
そして
シャンベルタンChambertin
どちらも流石の内容。まだ樽熟成中の、言わば「未完成品」ながら心を打つ素晴らしいワインでした。
ジュヴレイ・シャンベルタン村には、ドゥニ・モルテDenis Mortetやクロード・デュガClaude Dugatなど、ブルゴーニュでもトップ・クラスの造り手が複数存在しています。
それらの名声ある造り手さんも、次の世代への交代が進んでいます。新しくブルゴーニュの世界へ足を踏み入れる方はもちろん、古くからのブルゴーニュ愛好家で、最近アルマン・ルソーなどを飲んでいない方も、近年のヴィンテージを試してブルゴーニュの「今」を感じてみてはいかがでしょうか?
Clos Yは5月12日のレストラン講座のテーマを「ブルゴーニュ」とし、ブルゴーニュの良質なワインを、それに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。アルマン・ルソーの「レ・カズティエLes Cazetiers2006」も登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第124回 ぶどう品種の話 パロミノ編
スペイン南部、アンダルシア地方、ヘレスJerez(ヘレス・デ・ラ・フロンテラJerez de la Frontera)の町の周辺で造られるワインで、スペインではヘレスと呼ばれています。日本ではその英語での呼び名であるシェリーが定着しています。
シェリー自体は世界的に有名でも、その原料であるぶどう品種はあまり知られていないと思います。
ペドロ・ヒメネスPedro XimenezやモスカテルMoscatelなどの例外がありますが、シェリーのほとんどはパロミノPalominoという白ぶどうからできています。
シェリーは世界中で愛されていますが、パロミノはシェリーの原料以外であまり見かけることがありません。
パロミノの原産地はほぼ確実にアンダルシア地方とされています。パロミノの栽培は、暖かく乾燥した気候に適しており、その果汁には糖分と酸味が少ないという特徴があります。このため、一般的なワインに醸造してもとても上質なワインになることは難しいのですが、「アルバリサalbariza」という土壌で栽培されるパロミノからは上質なシェリーが生まれます。
アルバリサはヘレス・デ・ラ・フロンテラJerez de la Frontera、サンルカール・デ・バラメーダSanlúcar de Barrameda、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアEl Puerto de Santa Mariaの3つの町の間に見られる真っ白な土壌で、石灰の含有量が多く高い保水性を備えています。
このアルバリサ土壌で栽培されたパロミノのぶどうは特に上質とされ、その果汁から造られるシェリーは世界屈指の偉大なワインになる可能性を秘めています。
Jerezの畑。
実際、シェリーは世界的に見てもコスト・パフォーマンスの高い、素晴らしいワインだと思います。
すっきりした辛口タイプのフィノFinoから、重厚で余韻がとてもとても長いオロロソOlorosoまで、シェリーというひとつのワインでありながら世界でも類を見ないバラエティの広さがあります。
フィノは良く冷やして、タパス全般と楽しむことができると思います。鰯のマリネなど、一般的なワインと合わせることが難しい料理とも相性が良いです。オロロソは世界的に見ても最も余韻の長いワインのひとつと言えるでしょう。ソレラ・システムと言う独自の熟成方法により、長い樽熟期間を経たワインも含まれるこのワインは、酸化熟成により複雑な風味を備えています。しばしば紹興酒のフレイヴァーとの共通点も指摘されますが、このような重厚なワインは煮込んだ肉料理や濃厚な中華料理と合わせても楽しむことができると思います。
このような多彩なワインを生みだすパロミノ。注目されることは少ないですが、覚えておいて損は無いぶどう品種のひとつだと思います。
Clos Yは4月24日のレストラン講座のテーマを「シェリー~知られざる真価~」とし、5種類のシェリーをそれに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。中には最低でも30年以上の熟成を経たワインで構成される希少なシェリーも含まれております。ご興味がございましたら是非ご参加ください。
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ワイン・コラム 第123回 オーストラリアの話 ソレンバーグ編
少量生産のため希少、さらに超高価で様々な意味で入手困難なワインです。カリフォルニア州にそのような銘柄が複数存在していますが、もちろんアメリカ以外の国にも存在しています。
今回ご紹介するソレンバーグSorrenbergのワインも、カルト・ワインと呼ばれています。
ソレンバーグはオーストラリアAustralia、ヴィクトリア州Victoriaの北東部に位置するビーチワースBeechworthという地区に居を構えるワイナリーです。
ワイナリー入口
このビーチワースという小さなワイン産地には、ジャコンダGiaconda、カスターニャCastagna、サヴァテールSavaterreなど高品質なワインを造る造り手が集中しています。
ソレンバーグもこの地区を代表する重要な造り手のひとつです。有機栽培で育てた健全なぶどうを、なるべく人の手を加えずに上質なワインにしています。
これはピノ・ノワール
この造り手を代表する銘柄が、ガメイGamayです。フランス以外でほとんど見かけることが無い、カジュアルなイメージを持つこのぶどう品種が、オーストラリアの奥地(?)でひっそりと栽培され、それがカルト・ワインになっているのはとても興味深いことです。
カルト・ワインだけに現地でもなかなか見つかりません。ソレンバーグのHPにオーダー・フォームがありますが、ガメイはunavailableとなっています(2013年3月15日現在)。引き合いの強さが伺い知れます。
ビーチワースの町のレストランのメニューを見て歩き、ようやくこのガメイが置いてあるお店を見つけました!
のどかな田舎のレストラン
カルト・ワインと言っても一部のカリフォルニア・ワインのような値段は付けられておりません。また、凝縮感を追い求めた結果の少量生産のワインでもありません。あくまでもナチュラルに造られた、言わば自然派ブルゴーニュ的ワインです。とは言えボージョレBeaujolaisのガメイとは様子が違います。と言うより、このガメイをブラインドで飲んでボージョレを思い浮かべる人はほとんどいないのではないかという、構成のしっかりとした密度の高いワインです(ピノ・ノワールが10%ほどブレンドされています。)。
このワイン、2012年までは日本へ輸入されていましたが、現在はもう入ってきておりません。私たち日本のワイン愛好家にとって真に手の届かないカルト・ワインになってしまいましたが、このようなワインを現地で飲むことこそ、旅の醍醐味ですよね。
カルト・ワインに限らず、日本で手に入れることができない素晴らしいワインが世界中のワイン産地に隠れています。現地を訪れる際には、有名なワインではなくそのようなワインを試してみるのも良い思い出になることでしょう。
Clos Yは4月7日のレストラン講座のテーマを「オーストラリア」とし、極上のワインをそれに合わせた料理と共にお楽しみ頂きます。ソレンバーグのガメイも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第122回 フランス、プロヴァンス地方の話 ドメーヌ・ヴァンスリーヌとラミラル編
今回は新鮮な情報をお届けいたします。
まずは南仏、プロヴァンス地方のニースNiceから出発です。
ニースに行かれたことがある方は少なからずいらっしゃると思いますが、ニースとワイン産地を結び付けて考える方はほとんどいらっしゃらないことでしょう。
ニースの町のすぐそばに、ベレBelletというA.O.P.のワイン産地があります。
全体で約50haほどのぶどう畑しかないこのアペラシオンは、フランスのワイン産地の中でも極小と言えますので、ご存じでない方が多いのも無理が無い話です。
ちょうどバタイユ・デ・フルールBataille des Fleurs(フラワー・パレード)で浮き立つニースを北西に抜け、山道を登っていくと25分ほどでベレの畑ゾーンに着きます。
小さなアペラシオンなので、造り手さんも密集しています。今回訪問させていただいたのはドメーヌ・ヴァンスリーヌDomaine Vincelineです。
2006年創立のこのドメーヌは、僅か0.8haの畑を所有しています。私が今まで訪問させていただいた造り手さんの中で最も規模の小さな造り手さんです!
小さなプレス機
ベレは白、ロゼ、赤の生産が認められていますが、このドメーヌは白と赤のみを造っています。白はロールRolleという白ぶどう品種100%で造られる、フレッシュでフルーティなタイプ。このロールはヴェルメンティーノVermentinoと全く同じ品種で、この地ではこのように呼ばれています。
赤は地場品種のフォル・ノワールFolle Noireを主体に造られます。ベレ以外ではまず耳にすることの無いぶどう品種です。2011は少しジャム様の熟した赤黒い果実の香りに少し動物っぽいニュアンスが混じり、スパイスの要素も感じられます。味わいは果実味が主体で酸味は少し穏やかで、タンニンが少し多く、余韻にボワゼ(樽)が現れ少し長く続きます。ある程度長期の熟成に耐えられそうな構造をしていました。
これらのぶどうが育つ畑は標高約230mのところに位置し、土壌は砂質で少し大きめの小石が点在しています。風の吹き抜ける谷間に面していて、昼夜の温度差が大きいとのことです。
このワイン産地に来る度に思いますが、とても美しい眺めです!
ニースから近いので、興味のある方は行かれてみてはいかがでしょうか。
この日はニースとカンヌの間の、ジュアン・レ・パンという小さな町に泊まりました。この街にはラミラルL’Amiralという素敵なレストランがあります。
海に面したこの町、夏は観光客で賑わうと思うのですが、2月は閑散としていました。落ち着いて食事ができます(笑)
前菜はじゃがいものグラタン黒トリュフのスライスがけ、メインはTurbotチュルボというカレイ科の魚をお願いしました。コースの選択肢としては無かったのですが、尋ねてみたところコースに組み込んでくれました。感謝です!
ワインはプロヴァンスのロゼ!このお店、ワインの種類はあまり豊富では無いのですが、オーダーしたワインが品切れだったようで、同じ価格で少し良いものを出してくれました。良心的なお店です。
ワインも料理もおいしかったのですが、強いインパクトを残しているのはデザートでした。今でも鮮明に思い出すことができます。今回の旅では3つ星レストランなどにも行ったのですが、デザートに関してはこのお店が一番でした!
お皿にアーモンド・パウダーを使っているような、少しさっくりとした食感のガトー(クレープ?)を敷き、その上に皮も入っているプラムのシャーベットを乗せます。そのシャーベットの周りをメレンゲで覆い、表面をさっと焙ってミントを乗せて完成です。
甘味は強すぎない程度にしっかりしているのですが、はちみつを使っているこのデザート、砂糖ではないはちみつの甘味、香りが個性的で、私はすっかり気に入ってしまいました。
本当においしかったです。レストラン講座で、腕利きのパティシエにお願いして、いつか再現できればと思っております!
プロヴァンス地方はフランスのワイン産地の中で、高品質ワインを愛する人があまり注目しない産地であるのが現状です。実際この地方で造られるワインのほとんどは軽く、フルーティなロゼで、それはそれで悪くないのですが大変魅力的とは言い難いです。しかし、中には極上のワインも少量ですが存在しています!
それにつきましては、またこのコラムや講座でご紹介していきたいと思っております。
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ワイン・コラム 第121回 ボルドー地方の話 シャトー・ラグランジュ編
ボルドー地方には100を超えるグラン・クリュのシャトーが存在しておりますが、メドックMédoc地区、サンテミリオンSaint-Emilion地区など、地区により格付けの形態が異なっています。
ボルドー地方の格付けの中で最も有名なのは、1855年にナポレオン3世がボルドーの商工会議所に命じて作らせたメドック地区の格付けでしょう。ボルドー地方には1万を超えるシャトー(ワインの造り手)がいると言われておりますが、この格付けではその中で僅か61のシャトーがグラン・クリュに選ばれました。まさにトップの一群と言えると思います。
今回ご紹介するシャトー・ラグランジュChâteau Lagrangeは、栄えあるメドック地区の格付けにおいて第3級に選ばれたグラン・クリュです。
このシャトーの特徴として、所有者が日本の企業サントリーであるということが挙げられます。私は2004年にこのシャトーを訪問させて頂きましたが、案内してくださったのは椎名敬一氏、もちろん日本人でした。やはり日本語での会話は楽です!
1855年の格付けは、当時のワインの流通価格を参考に定められたようです。2013年となっては158年前のことですから、その間に格付けにそぐわなくなった(良い意味でも、悪い意味でも)シャトーももちろんあります。
シャトー・ラグランジュは、良い意味で3級という格付けに合っていないのではないかと思います。サントリーがシャトー・ラグランジュを購入したのが1983年。当時は輝かしい評価が失われていたようですが、再生のための投資を続け、今日では3級、もしくは2級並みの安定した評価を受けるようになっています。
実際ワインの品質は素晴らしいと思います。グラン・ヴァンであるシャトー・ラグランジュ、例えば最近の2007は偉大なヴィンテージではなかったにもかかわらず色が濃く、凝縮感があり、サン・ジュリアンの典型的なスタイルと言えるようなカシス等黒系果実の香りに良質な樽熟成から来る香ばしいロースト香が調和しています。このグラン・ヴァンの品質を支えているのがセカンド・ワインのレ・フィエフ・ド・ラグランジュLes Fiefs de Lagrangeの存在です。1985年に導入されたこのセカンド・ワインは、若い樹のぶどう(=グラン・ヴァンであるシャトー・ラグランジュの品質に見合わないと判断されたぶどう)が使われています。このように、やや品質が劣るぶどうを他のワインに回すことによって、シャトー・ラグランジュの品質を向上させることができるわけです。さらには、ラグランジュの名を名乗ることのない第3キュヴェも存在しているようです。そのため、セカンド・ワインと言えどもレ・フィエフ・ド・ラグランジュも良質なワインに仕上がっています。
最後に、ソーヴィニヨン・ブランを主体に造られる白ワインレ・ザルム・ド・ラグランジュLes Arums de Lagrangeも素晴らしい品質であることを付け加えておきます。
Clos Yは、3月10日のレストラン講座のテーマを「ボルドー」とし、希少なシャトー・ラグランジュの1962等をお楽しみ頂きます。1962の水平比較としまして、グラン・クリュのシャトー・ラ・トゥール・カルネ1962も登場いたします。ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第120回 スペインの話 ボデガス・アユソ編
私は小学生の頃、パン工場やガラス工場に学校の社会科見学で行った記憶があります。
最近は「大人の工場見学」という名の下、ビール工場の見学などが人気のようですね。
私がワイン生産者を訪問させて頂く場合は、ボルドーのシャトーやブルゴーニュのドメーヌなど、例え規模が大きくても「工場」というような印象を受けるところにはほとんど行ったことがありません。
大規模なところで印象に残っているのは、オーストラリアに数軒あります。カンガルーのラベルのワインで有名なカセラCasellaや、川の水を利用して灌漑を行い大規模にワインを造るリヴァー・ランド地区のワイナリーなど、その規模の大きさにはびっくりさせられました。
今回ご紹介させて頂くボデガス・アユソBodegas Ayuso、スペインのワイナリーですが規模が大きいところです。
スペインで最大、そして世界でも最大級のワイン産地、ラ・マンチャLa Manchaのワインを造るこの造り手は、スペインのほぼ中央、少し南に位置しています。
ラ・マンチャは広大なワイン産地ということだけあって、大規模に、大量生産型のワインが多く造られるところです。大規模、大量生産とはいえ自然の賜物であるワインですので、原料であるぶどうが生まれ育った土地を表現しておりますが、「嗜好品としてのワイン」愛好家にはあまり注目されることが無かった産地です。
そんなラ・マンチャにおいて、高品質なワインで世の注目を集めたのがボデガス・アユソです。高品質なぶどうから造った上質なワインをじっくりと熟成させたエストーラEstolaシリーズは、その品質の高さにおいて評価されました。コスト・パフォーマンスの高さも見逃せないポイントです。
実際にワイナリーに着いてみると、まずはその入り口で驚かされました。巨大なタンクがそびえ立ち、2008年当時私が訪問させていただいたヨーロッパのどのワイナリーよりも「巨大さ」を伺わせるものでした。
内部も巨大なコンクリート・タンクや
フル稼働の瓶詰めライン
広いストック・スペース
があり、ときおりすぐ脇を通過するフォーク・リフトに気をつけながらの訪問でした。
肝心のワインの品質はというと...いや、流石ですね、経験豊富なワイン評論家が高く評価するだけありまして、見事なワインが造られていました。
実際、最高級のグラン・レセルバGran Reservaのものは何年もの樽熟成を経てからようやく瓶詰めされ、さらに数年の熟成を経てようやく出荷されます。そのようなワインを造る、と決めた時点で、造り手さんの「品質へのこだわり」が垣間見えるように思います。
素晴らしいワインは有名なワイン産地ではないと生まれないというわけではありません。「有名では無い産地の素晴らしいワイン」を見つけるのは大変ですが、そのようなワインにこそワインの楽しみが詰まっているのかもしれません。
Clos Yは2月6日のレストラン講座のテーマを「スペイン」とし、広大なスペインから選りすぐった上質なワインをそれに合わせた特別料理と共にお楽しみ頂きます。ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第119回 ローヌ地方の話 ポール・ジャブレ・エネ編
ですが、冬本番のこの季節は熱い食材が溢れています!
例えば、黒トリュフ。ほぼヨーロッパでのみ産出されるこの食材は、冬に旬を迎えます。夏にはサマー・トリュフと呼ばれるトリュフがありますが、こちらは外側は黒いのですが切ってみると中は白いです。黒トリュフは断面まで黒く、その官能的な香りの強さには驚かされるばかりです。
また、冬の食材と言えば、ジビエGibierでしょう!ジビエとは野生の鳥獣類のことです。野生の動物ですから、狩りをして捕まえ、それを食肉として利用するわけです。猪、鹿、鴨、鳩などその種類は多岐にわたります。
野性味あふれるジビエの料理とは、やはり野趣あふれるワインと合わせたいものです。その候補の筆頭として上がってくるのがローヌRhône地方のワインです!
代表的な銘柄としまして、コート・ローティCôte Rôtie、エルミタージュHermitage、シャトーヌフ・デュ・パプChâteauneuf-du-Papeなどが挙げられます。
今回はエルミタージュをご紹介させて頂きます。
エルミタージュのワインのもととなるぶどうの畑は、タン・レルミタージュTain-l’Hermitageの町の北側で、南を向いた急斜面に展開されています。
コート・ローティの畑同様見上げてしまうような急斜面です。ドイツのモーゼルMoselの極上畑など、世界でも極一部の神がかった畑だけが持つ特有のオーラを放っているようです。
トップの造り手として、ジャン・ルイ・シャーヴJean-Louis Chave、シャプティエChapoutier等が挙げられますが、恐らく最も有名なエルミタージュのワインはポール・ジャブレ・エネPaul Jaboulet Aîné社のラ・シャペルLa Chapelleでしょう。
その名の通り、エルミタージュの丘にある小さな礼拝堂に由来する名を持つこのキュヴェは、多くのラインナップを誇るポール・ジャブレ・エネの中でもフラッグ・シップのワインです。樹齢の高いシラーから、驚くほど低く抑えられた収穫量で凝縮したぶどうを摘み取ります。濃密で、凝縮感がありながらミネラルを湛えクラシックな構成のこのワインは、まさにエルミタージュを代表するワインのひとつです。
エルミタージュは赤ワインのイメージが強いと思うのですが、実際は少量ながら白ワインの生産も行われています。ラ・シャペルとして、1962年まで白ワインの生産が行われていたことをご存知の方は少ないと思いますが、ポール・ジャブレ・エネは2006年に、失われていたラ・シャペル白を再び造ることを決断しました。
今日では既に市場に流通しています。ローヌ地方の白ワインとしてはトップ・クラスの価格が付けられていますが、マルサンヌMarsannne 100%のこのワインは実に見事な仕上がりです。密度の高い果実味を持ち、ある程度しっかりした酸味を備えた構成は、ブルゴーニュの上質な白ワインを彷彿とさせます。
ラ・シャペルを含むポール・ジャブレ・エネの高級ワインは、ユニークな場所で熟成されています。本社を訪問した際、案内してくれたのは本社から車で数十分行ったところにある洞窟でした。紀元前121年にローマ人によって作られたというその洞窟は、美しく整えられており、神秘的な雰囲気を備えていました。今まで訪問させて頂いたカーヴの中で最も印象の強いもののひとつでした。
ジビエのシーズンもあと1ヵ月ほどで終わりを迎えます。今のうちに、ローヌ・ワインを片手に楽しんでみてはいかがでしょうか?
Clos Yは、2月9日の単発講座のテーマを「エルミタージュ」とし、ジャン・ルイ・シャーヴのエルミタージュ赤2007、白2009、ポール・ジャブレ・エネのラ・シャペル赤1999などの試飲も予定しております。約1時間の講座の後にはワイン持ち寄りの食事会も企画しております。ご興味がございましたらご連絡ください。
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ワイン・コラム 第118回 アルザス地方の話 ジョスメイエ編
今年はどのような年にしていきますか?
今年は3月に世界ソムリエ・コンクールが東京で開催されます。過去、1995年に東京で開催された時には日本代表の田崎真也氏が優勝され、世間がワインに注目しました。今回も、メディアが注目することでしょう。ワイン業界のイヴェントが一般的なニュースとして取り上げられるのは、毎年ボージョレ・ヌーヴォーの解禁くらいのものですから、3月のコンクールが日本のワイン業界全体を盛り上げてくれるかなと期待しております。
Clos Yは、2013年も秘蔵のワインをレストラン講座等で提供していきます。まずは2013年第1回目のレストラン講座、極上ワインと料理のマリアージュ(1月14日)で、シャトー・デュクリュ・ボーカイユChâteau Ducru Beaucaillou1966や、アルザス ゲヴュルツトラミネール ヴァンダンジュ・タルディヴ Alsace Gewurztraminer Vendanges Tardives1990 ジョスメイエJosmeyerなど...
今回は、アルザス地方の実力派の造り手、ジョスメイエをご紹介したいと思います。
この造り手は、アルザス地方の人気の観光町コルマールColmarから西に5kmほどのヴィンツェンハイム村に居を構えています。
この造り手の特徴として、畑を有機栽培で管理していることが挙げられます。1999年にはビオディナミ農法を取り入れました。醸造もナチュラルで、酵母は添加せず天然酵母によるアルコール発酵を行い、補糖(ぶどう果汁に糖分を加えてワインのアルコール度数を上げる技術)は行いません。
しっかりと果実味がありながらしなやかで優しさのある味わいが和食と合うのでしょうか、東洋的思想に通じる哲学があるのでしょうか、漢字で「蓮」と書かれたものなど、和風のラベルが貼られたワインもあります。
実際ワインは素晴らしい品質です。アルザスは、アルザス・グラン・クリュAlsace Grand Cruという特級畑が51ありますが(今後これらのグラン・クリュひとつひとつが独立したアペラシオンになる模様です。)、グラン・クリュを名乗るためには厳しい条件をクリアしなければなりません。良く知られているものとしては、アルザス高貴4品種しか(例外もありますが)グラン・クリュと名乗ることができません。ジョスメイエは、グラン・クリュの畑に高貴4品種以外の品種、例えばピノ・オーセロワPinot Auxerrois等を植えて、一般的なアルザスとして販売しています。これが素晴らしいのです!
特級畑に特級を名乗ることができない、言ってしまえば無名の品種を栽培し続け、高品質なワインを造る...かっこいいです!
このような造り手さんは応援したいと思いますが、私などが応援しなくてもその品質によって世界で高く評価されています。
世界には稀にこのような「裏グラン・クリュ」とでも言うべきワインが存在しています。このようなワインを見つけ出して、偉大な土地を思いつつ味わうのもワイン特有の楽しみですね!
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ワイン・コラム 第117回 2012年印象に残ったワインの話
どのような年でしたでしょうか?
私は今年もいろいろなワインに出会うことができました。とても安価な割にとても良くできていて驚かされたポルトガルの白ワインや、入手困難なカリフォルニアのカルト・ワイン、フランスで出して頂いた日本未入荷のワインなど...
深く思いだすときりがありませんので、ぱっと思い浮かぶ印象的なワインをいくつかご紹介させて頂きます。
まずは2月にClos Yの企画で行った「ドメーヌ・デ・コント・ラフォンDomaine des Comtes Lafonの会」で登場した、コント・ラフォンのムルソー・プルミエ・クリュ シャルムMeursault 1er Cru Charmes 1984。1984はそれほど良い年ではありませんでしたので、ワインの状態に少しの不安がありましたが、開けてみてその品質の良さに驚かされました。熟成感のある複雑な香りが広がり、味わいも果実味がしっかりと残っていて、素晴らしい状態でした。難しいヴィンテージの白ワインでも、偉大な造り手が素晴らしい畑のぶどうから造るワインは熟成能力があることを、改めて実感しました。
王道のワインの後は変わり種をひとつ。フランス、アルザスAlsace地方のオードレイ・エ・クリスチャン・ビネールAudrey et Christian Binnerが造るカッツ・アン・ビュル ピノ・グリKat’z en Bulles Pinot Grisです。ヴァン・ド・ターブルVin de Tableの格付けになりますのでヴィンテージの表記がされておりませんが、2009年のぶどうから造られたものです。天然酵母によるアルコール発酵を行った微発泡性のワインなのですが、瓶詰めの際にフィルターをかけていないため澱が多く、濁っています。ぶどうに由来するのか、少し赤みを帯びた茶色っぽい色調を呈しています。皮や種も一緒にぶどうを搾った時のような香りを放ち、グラスを回すとしゅわっと泡立ち、二酸化炭素を含んだ香りが立ちます。少し残糖があるようで、甘味を伴う果実味がしっかりしています。酸味もなかなかしっかりとしていて、ボリュームがあります。泡は穏やかで口中でムース状。余韻はナチュラルな香りと果実味が少し太く、やや長く続いていきます。極めて個性的なワインで、極めてナチュラル。面白いです!出会うワインがほぼすべて初めてで、「これはどのようなワインだろう?」とどきどきしながらワインをテイスティングしていた初心を思い出させてくれた、心を打つワインでした。
続いてオーストラリアからロゼ・ワインをひとつ。同国を代表するピノ・ノワールの造り手のひとり、バス・フィリップBass Phillipのピノ・ノワールのロゼ2010です。西オーストラリア州のマーガレット・リヴァーなど、良いワインが生産される土地はオーストラリアの南部各地にありますが、ピノ・ノワールに関しては冷涼なヴィクトリア州南部やタスマニア州など一部に限られるように思います。バス・フィリップはヴィクトリア州のギップスランドGippslandということろに居を構えています。前述の通りピノ・ノワールで高い評価を得ておりますが、ロゼは私は経験したことがありませんでした。これが、素晴らしかったです!オレンジがかった色調は濃く、香りはまるでピノ・ノワールの赤ワインのようにしっかりとしていて複雑です。果実のコンフィに土っぽさ、スパイシーさが絡み合います。味わいでは果実味が十分にあり、タンニンもはっきりと感じられるレヴェルなのですが、アルコール度は高くなく、全体としてはややスマートにまとまっています。テイスティング用に黒いグラスがありますが、そのグラスで飲んだら赤だと思うような、しっかりとした構成のロゼ・ワインでした。
来年はどのようなワインとの出会いが待っているのでしょうか?これからも素晴らしいワインをご紹介させて頂きたいと思います!
Clos Yは、2013年も毎月のレストラン講座に加えて、普段なかなか飲むことができない「偉大なワイン」をテイスティングすることができる講座を企画していきます。これからも、ワインと共に元気に過ごしていきましょう!
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