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ワイン・コラム 第136回 ロワール地方の話 サンセール編

8月末。涼しい日もあり、夜には秋の虫の声も聞こえるようになりましたが、まだ暑い日が続きますね。

 

暑い日には爽やかなワインを良く冷やして楽しみたいところです。

 

フランス、ロワール地方のミュスカデMuscadetや、ボルドー地方のアントル・ドゥー・メールEntre-Deux-Mers、ポルトガルのヴィニョ・ヴェルデVinho Verde、ドイツ、モーゼルMoselのリースリング、フランス、プロヴァンスProvence地方のロゼなど、とても良いでしょう。

 

サンセールSancerreのワインも、この時期重宝すると思います。

 

サンセールのワインは、パリから約170km南に位置するサンセールの町の周辺のぶどう畑のぶどうから造られます。

 

サンセールは小さな町ですが、小高い丘にあり、遠くから見えてくるその風景に、モン・サン・ミシェルが思い出されました。美しい風景です。

DSC00980 サンセールからの風景 

サンセールの白ワインは、ソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blanc100%で造られます。高級なキュヴェ(生産量が少ないため、あまり目にする機会は多くないと思います。)には樽が使われ、秋から冬に飲みたいような味わい深いものがありますが、一般的には醸造に樽を用いず、フレッシュに仕上げられます。柑橘類やフレッシュ・ハーブの香りを持ち、爽やかな酸味を楽しむことができます。

 

サンセールのワインのラベルに、その原料となるぶどうが育った畑名が記されることは多くありませんが、ひとつ、極上の畑を紹介したいと思います。それは、サンセールの町から西に3kmほどの所にある、シャヴィニョールChavignol村にあります。

 

その名もレ・モン・ダネLes Monts Damnés。シャヴィニョール村に行けば嫌でも目に入る、南向きの斜面畑です。日当たり、水はけが良く、いかにも良く熟したぶどうが収穫できそうな立派な畑です。畑を知った上で、その畑のぶどうからできたワインを飲むことは、興味深く、ワインの醍醐味のひとつですね。

 

シャヴィニョール村と言えば、クロッタン・ド・シャヴィニョールCrottin de Chavignolと言う名の山羊のミルクのチーズにより、その名を知られています。小さな丸い形のチーズで、フランスでは広く親しまれています。チーズは熟成により風味が変化しますが、このチーズは特に熟成による風味の違いが顕著で面白いと思います。若いうちは水分が少し多くややしっとりとしていて、少し柑橘類やハーブを思わせる香りがあり、味わいは酸味がややしっかりと感じられます。熟成が進むにつれ水分が飛び、チーズ自体一回り小さくなります。身がしまり、カットするのが少し大変なほどです。そのため熟成したこのチーズ専用のナイフもあるほどです。この段階まで来ると、ナッツ系の香りが出てきて、味わいは酸味が落ち着いてこくが出てきて、味わいの余韻が非常に長くなります。

 

同じ産地と言うこともあり、クロッタン・ド・シャヴィニョールはサンセールの友、というイメージがありますが、フレッシュタイプのサンセール白とは、若い状態のクロッタン・ド・シャヴィニョールを合わせると良いでしょう。

 

さて、サンセールにはロゼと赤もあります。どちらもピノ・ノワールPinot Noir100%で造られます。ピノ・ノワールの本場ブルゴーニュのワインに比べると、より北で冷涼な気候を反映して、線の細い、早飲みタイプのものが一般的ですが、中には新樽を使って熟成された、極上ワインも少量ですが造られています。

 

うだるような夏の暑さも終わりを迎えると寂しいものです。暑いうちに、暑い中で楽しむ爽やかワイン、試してみてはいかがでしょうか?

 

Clos Yは、9月7日(土曜日)のお昼に、「偉大なワインを飲む!」単発講座を企画しております。ブラン・フュメ・ド・プイィの王者、ディディエ・ダギュノーがサンセールで造る希少なレ・モン・ダネも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。

 

 

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ワイン・コラム 第135回 シャンパーニュ地方の話 上質なスティル・ワインに注目!編

フランス北東部に位置する、パリから一番近いワイン産地、シャンパーニュChampagne地方。

 

言わずと知れた、世界最高峰のスパークリング・ワインの産地として名声を誇っていますが、ひっそりとスティル・ワイン(発泡性では無い、いわゆる普通の白ワイン、赤ワイン、ロゼ・ワイン。)が造り続けられていることはあまり知られていないようです。

 

今回は、シャンパーニュ地方で造られているスティル・ワインをご紹介したいと思います。

 

まず、シャンパーニュ地方には、原産地呼称(A.O.P.)として、

 

1、  Champagne

2、  Coteaux Champenois コトー・シャンプノワ

3、  Rosé des Riceys ロゼ・デ・リセイ

 

の3つがあります。

 

1のChampagneは、スパークリング・ワイン専門のアペラシオンです。いわゆる「シャンパン」です。

 

2のコトー・シャンプノワは、シャンパーニュ地方で造られるスティル・ワインで、赤ワイン、白ワイン、ロゼ・ワインの生産が認められています。白ワインにはChardonnayシャルドネが、赤そしてロゼ・ワインにはPinot Noirピノ・ノワールとPinot Meunierピノ・ムニエが用いられます。

 

有名メゾンが造る高品質なコトー・シャンプノワ(日本で入手可)を挙げると、

Egly-Ouriet Coteaux Champenois Ambonnay Rouge

Bollinger Coteaux Champenois La Côte aux Enfans

Henri Giraud Coteaux Champeois Blanc

などがあります。

 

個人的に忘れられないのは、

René Geoffroy Coteaux Champenois Cumières Rouge Pinot Meunier 2008

DSC00671 - コピー 

他、日本ではあまり見かけませんが、Laurent-Perrier, Moët et Chandon, Gatinoisなどもコトー・シャンプノワを造っています。

 

コトー・シャンプノワは、シャンパーニュ(スパークリング・ワイン)に用いられるようなコルク栓が使われている場合が多いようです。その場合、外観はシャンパーニュ(スパークリング・ワイン)のように見えます。特にフランスのワイン屋さんなどで、シャンパーニュ(スパークリング・ワイン)を買ったつもりなのに実はコトー・シャンプノワを買ってしまった、ということが起き得ますので、これからフランスに行ってシャンパーニュを買うつもりでいらっしゃる方はコトー・シャンプノワの存在を頭の片隅にでも入れて置かれると良いかもしれません。

 

さて、コトー・シャンプノワの品質ですが、シャンパーニュ地方はフランスでも最北のワイン産地で、冷涼なところです。そこで育つぶどうはあまり糖度が上がらず、酸味が強い果汁が得られます。それがそのままワインになりますので、濃縮感が強くなく、色あいも淡く、酸味のしっかりとしたワインが多いです。例えば、コトー・シャンプノワの赤を、同じ価格のブルゴーニュのピノ・ノワールと比べると薄くてがっかり、ということになる場合が多いと思います。

 

しかし、上に挙げたような、とても上質なコトー・シャンプノワもありますし、近年は温暖化の影響もあるのか、ぶどうの成熟度が増し、過去に比べ上質なコトー・シャンプノワが増えてきたのが実感されます。日本で見かけないコトー・シャンプノワがフランスなどで売られていたら、遊び半分で試してみるのも良いでしょう。

 

続いて、3のロゼ・デ・リセイですが、このワインはシャンパーニュ地方南部Les Riceysレ・リセイ村周辺で栽培されるピノ・ノワールのみから造られるロゼ・ワインです。つまり、ロゼ・デ・リセイといえば、必ずピノ・ノワール100%のロゼ・ワインということです。

 

コトー・シャンプノワのワインに比べると、ロゼ・デ・リセイは、原料となるぶどうが南部のより暖かい土地で育っていますので、ロゼとは言えより厚みのあるものが多いです。

Les Riceys 樹 Les Riceysの畑

Les Riceys 川 村に流れる川 

世界でロゼ・ワイン・ブームが起こっていると言われています。大体のロゼは早飲みタイプのフレッシュでフルーティなもので、それはそれで魅力があります。ただ、ピノ・ノワールを原料とした、冷涼な地域で造られるロゼは、クールな雰囲気をたたえた、独特の美しさがあるように感じられます。ロゼ・デ・リセイはまさにそのようなワインで、生産量こそ多くないものの、フランス最上のロゼ・ワインのひとつと言えるものがあると思います。

 

シャンパーニュ地方のスティル・ワイン。あまり見かけることはありませんし、見つけたとしても決して安くは無い価格が付けられています。今までは好奇心の強い、もしくは勉強熱心な人が試せばよいもの、というようなワインだったように思われますが、近年素直に心を打つ、驚くべき品質のものが増えてきているようです。

 

暑い時期は赤ワインを敬遠しがち、という方など、試してみてはいかがでしょうか?

 

Clos Yは、9月1日のレストラン講座のテーマを「シャンパーニュ」とし、フル・コースのフランス料理(☆付きレストランが会場です!)をシャンパーニュ地方のワインと合わせてお楽しみ頂きます。メインのお肉料理には、重厚感のあるロゼ・デ・リセイに登場して頂きます!ご興味がございましたらご連絡ください。

 

 

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ワイン・コラム 第134回 チリの話 モンテス編

世界中に美しい風景があると思います。

 

ぶどう畑に限っても、海沿いの絶壁のチンクエ・テッレCinque Terre、円形闘技場の様なプリオラートPriorat、コート・ダジュールに面したカシィCassis、レマン湖北岸の急斜面ヴォーVaud...

 

ワン産地の数だけ美しい風景があるのかもしれません。

 

しかし、今回ご紹介するチリのワイナリーモンテスMontesで、私は世界で最も美しいもののひとつであろう景色に出会いました。

 

まずはモンテスというワイナリーについてですが、1988年創立の、世界的に見てかなり若いワイナリーです。

 

しかし日本への導入は比較的早く、チリワインの日本におけるひとつの顔を担っていると言えると思います。1998年にチリのカベルネ・ソーヴィニヨンが日本で流行しました。私は、ワインを好きになり始めたころにモンテス・アルファ カベルネ・ソーヴィニヨンMontes Alpha Cabenert Sauvignonを飲んで、とてもおいしいと思ったことを今でも覚えています。

 

さて、そのワイナリーと畑を、2013年の4月に訪問させて頂きました。場所は、コルチャグア・ヴァレーColchagua Valley内、サンティアゴから170kmほどの距離に位置しています。

DSC01407 燃えるように色づいた美しい木がお出迎え。 

ワイナリーに着くと、ジープの様な車に乗せて頂いて、早速畑の見学です。急な斜面を登ったり降りたり、激しく揺れる車内ですが、そんなことは気にならないほど美しい風景が目前に広がっています。

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途中、斜面の高い場所で一度車を降りて風景を眺めている時、案内してくださったワイナリーの方が得意げにおっしゃった「この景色、ごめんなさい。」という台詞を今でも覚えています。

 

畑の見学の後は風水を取り入れた、やはり美しいワイナリーに入り、醸造設備や樽熟成庫などを見せて頂きました。

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この日はちょうど収穫の真っ最中。一年で一番忙しい時期です。

DSC01416 

この日用意して頂いたワインは25種類!1990まで遡る、モンテス・アルファ カベルネ・ソーヴィニヨンの垂直も含まれていました。試飲の最後に登場したのは、謎の赤ワイン。モンテスの新商品とのことで、結局正体は明かされずじまい。近いうちに発売されるようです。カベルネでしょうか...?

 

ワイナリーを出た時はとっぷり暗くなっていましたが、空には星が輝いていました。

 

美しい土地で生まれる、健やかなチリのワイン。最近では冷涼な土地から、爽やかな酸味を備えたエレガントなタイプのワインも増えてきています。この週末にでも(いや今夜早速)試してみてはいかがでしょうか?

DSC01417 

 

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ワイン・コラム 第133回 ブルゴーニュの話 クロ・ド・タール編

ブルゴーニュのグラン・クリュGrand Cru
 

その名を冠するワインは、世界で最も素晴らしいワインのひとつである可能性が高いであろうと言うことができます。

 

畑が格付けの対象であるブルゴーニュ地方では、ひとつのグラン・クリュの畑を複数の所有者が分割して所有していることが一般的です。例えば、クロ・ド・ヴージョClos de Vougeotは50ha以上ある大きなグラン・クリュですが、2013年現在約80の所有者が存在しています。

 

そうなると、同じグラン・クリュのワインでも、生産者により品質のばらつきが生じるのは必至ですし、グラン・クリュの中には本当にグラン・クリュの資質があるのか疑いたくなるような、それほど条件が良くなさそうな畑が含まれてしまっています。

 

そのため、ブルゴーニュのグラン・クリュのワインの中には、残念ながらがっかりさせられてしまうものが少なからず存在しています。

 

今回ご紹介するクロ・ド・タールClos de Tartは、特に1996ヴィンテージ以降、特に安心して購入できる安定感のあるグラン・クリュです。

Clos de Tart 

なぜ、安定感があるのか。例えば1996年から醸造責任者を務めるシルヴァン・ピティオ氏Sylvain Pitiotのおかげ、理想的な斜面畑、モメサンMommessinモノポールMonopole...複数の理由を挙げられますが、そのような周知の事実の紹介は他に任せるとしまして、今回はちょっと内部に踏み込んだお話をしたいと思います。

 

まずは畑とドメーヌについて。約7.5haの一枚畑は、全てモレイ・サン・ドゥニ村Morey-Saint-Denisにあります。北隣りはクロ・デ・ランブレイClos des Lambrays、南隣りはボンヌ・マールBonnes Maresと、グラン・クリュに挟まれています。

 

一般的には収穫されたぶどうはできるだけ早く醸造所に運ばれ、すぐに醸造の工程へと流れて行きます。中には畑から醸造所まで遠く離れているケースがあり、そのような場合にはぶどうが時間と共に傷んでいってしまいます。しかしクロ・ド・タールの場合、醸造所は文字通り畑のすぐ隣にありますので、収穫したてのぶどうをすぐに醸造所に入れることができます。

 

シルヴァン・ピティオ氏は、クロ・ド・タールの畑を、細かな違いに基づいて6つの区画に細分化して管理しています。収穫もその区画ごとに行われ、それぞれ別々のステンレス・タンクで醸造されます。

 

Clos de Tart2 畝が斜面に対し垂直になっている。

Clos de Tart3 収穫直前のぶどう。

画像 053 少し大きめの小石が含まれる土壌。

 

2005年を例に挙げると、収穫は9月21日開始、3日半かけて、24日に終了しました。6つに分けられた区画ですが、標高が高い区画の方がぶどうが熟するのが遅い、と単純に予想されますが、実際はそう簡単ではないようで、下の区画より先に収穫した上の区画もありました。

 

さて、ピノ・ノワールが植えられているクロ・ド・タールですが、中にはピノ・ノワール以外のぶどうも存在しているようです。実際ピノ・ノワールは突然変異を起こしやすく、ピノ・グリPinot Grisやピノ・ブランPinot Blancが生まれてきた経緯があります。その手のものか、苗木屋のミスか、わかりませんが、白ぶどうがちらほら見受けられました。しかし、特にこれからワインの資格を取ろうと勉強されている方は、クロ・ド・タールはピノ・ノワール100%と認識してください(笑)

 

さて、(恐らく)世界中どこでも、ぶどうの収穫が終われば祭りが待っています!クロ・ド・タールの収穫終了祭り(ブルゴーニュ地方ではラ・ポーレLa Pauléeと呼ばれます。)は...

画像 052 頭にはぶどうの枝の王冠を!

画像 061 ワインはもちろんクロ・ド・タール!

画像 062 マリア様が見守る。

祭りは良いものです。

 

過去10年を見ると、2004は苦労したようですが、それ以外のヴィンテージは軒並み高評価を得ています。グラン・クリュの中でも特に力強い部類に入るクロ・ド・タールは、熟成させると若いうちには表現できない魅力を開かせていきますが、若いうちに飲んでも若いなりの素晴らしさを楽しむことができます。クロ・ド・タールを飲まずして、ブルゴーニュを、ピノ・ノワールを語ることなかれ、とまでは言いませんが、そう言えるほどの価値があるワインだと思います!

 

Clos Yは、8月4日のレストラン講座のテーマを「半年に一度の豪華版」とし、極上ワインと料理のマリアージュをお楽しみ頂くよう予定しております。10年の熟成を経た、クロ・ド・タール2003も登場します!ご興味のある方はご連絡ください。

 

 

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ワイン・コラム 第132回 チリの話 見落とされがちな気候区分そして意外なワインの価格編

前回に引き続き、チリのお話です。

 

ワイン・コラム131回で、「南半球に位置するチリでは、北半球に位置する日本とは逆に、南に行くほど冷涼になります。」と書きました。このことは間違いではないのですが、チリのワイン産地の気候を語る上で、もうひとつ非常に重要な要因があります。

 

それは、東西の条件差です。キーとなるのは冷涼な海流二つの山脈です。

 

まずは冷涼な海流についてご説明します。チリの西側には太平洋が広がっています。そしてこの場所にはフンボルト海流という冷たい海流があり、海に近ければ近いほど冷涼な気候になります。

DSC01480 冷たい海。 

続いて、山脈のお話です。チリで山脈、と言うとまずはアンデス山脈を思い浮かべますね。最高峰が約7,000mにも達する、南米大陸を貫く重要な山脈です。

 

そしてもうひとつ、あまり語られることが無いように思われますが、チリには海岸山脈があります。この海岸山脈はその名の通り海岸沿いある山脈で、アンデス山脈とほぼ並行して南北に連なっています。

 

これらの要素をもとに、チリのワイン産地は東西の区分で3に分類されます。

 

1、 海岸地区Costa

2、 エントレ・コルディエラス地区Entre Cordilleras

3、 アンデス地区Andes

 

1の海岸地区は、その名の通り、冷たいフンボルト海流の影響を強く受ける、海に近いところです。

 

2を飛ばしてまず3のアンデス地区の説明を先にしますと、こちらもその名の通り、アンデス山脈の麓に位置する、標高の高いところです。標高が高ければ高いほど、単純に気温が低くなります。

 

そして2のエントレ・コルディエラス地区。この地区は複雑です。単純に考えると、冷たい海の影響をあまり受けず、標高もあまり高くなく、暑い土地、ということになります。実際この区分に属するワイン生産地の多くはぶどうが完熟する環境に恵まれていて、ワインのアルコール度数が15度を上回ることも珍しくありません。濃厚なカベルネ・ソーヴィニヨンがこの地区の代表的ワインです。しかし、海岸山脈は途切れることなく続いているわけではありませんので、場所によっては冷涼な海風が吹き込んでくるところがあります。そのような場所では、比較的クールな印象のエレガントなワインができます。

 

少し難しいお話ですが、細長いチリという国のワイン産地は、北に行くほど暑く、南に行くほど冷涼だ、と単純に言い切ることができない、複雑なテロワールを持っているということです。

 

さて、続いてサンティアゴの街を歩いて気付いたワインの価格に関するお話です。

 

私自身チリのワインは安くコスト・パフォーマンスが高い、というイメージが強くありましたので、チリはかなり物価が安い国だと思っていました。しかし、ホテルやレストランの価格を見る限り、決して物価の安い国では無いようです。ホテルやレストランはもちろん格によりますが、日本とあまり変わらない程度の価格。コンビニのようなミニ・マーケットの商品の値付けを見ても、日本と比べて物価が極端に安いわけではありません。

 

そして、1軒のワイン・ショップに入り、値付けを見て衝撃を受けました。日本でもお馴染みの銘柄が並んでいます。ディスプレイは美しく、扱っているのは上質なものが多かったので、チリのワインショップの中でも高級店だったのだと思いますが、高級銘柄は、日本での値付けのほうが安かったのです。

 

それも、僅かな違いではありません。日本で6,000円ほどで購入することができるチリの極上ピノ・ノワールのそのお店での値付けは、当時の換算レートで日本円にして1万円以上。日本で1万円近くする高級カベルネ・ソーヴィニヨンなどは、日本円に換算して2万円以上と、倍ほどの差があったのです。

 

事実として、私たちは、日本に居ながら、チリで買うよりも安くチリ・ワインを楽しむことができる環境にいます。

 

この不思議は、恐らく「税金」がポイントになってくるのだと思いますが、チリでの価格を考えると、異常とも言えるチリ・ワインのコスト・パフォーマンスの高さのわけがわかる気がします。

 

もし、チリのワインを、安いからと敬遠されている方がいらっしゃいましたら、「本当はこの値段の2倍するワインなのだ。」と思ってみてはいかがでしょうか。そのチリ・ワインが少し高級に見えてくるかもしれません(笑)。

 

 

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ワイン・コラム 第131回 チリの話 まるでピュリニー?!知られざる寒冷地の可能性

2013年4月に、チリのワイン産地を訪れる機会に恵まれました。

 

私にとって初のチリ、さらに初の南米大陸の経験でした。

 

成田からパリへ約12時間。パリで6時間過ごし、さらにチリの首都サンティアゴSantiagoまで約13時間半。

 

サンティアゴの手前でアンデス山脈を越えるのですが、朝日に染まるアンデス山脈はそれは美しいものでした。南米に来た!と実感したものです。

 

着いたのは日曜日の朝でしたが、なかなかきつい状態での旅の始まりになりました。

 

しかし空港を出て、乾燥した空気に包まれ、強い日差しを浴び、チリに来たことを実感。初めての土地への期待で疲れはどこかへ行ってしまいました。

 

チリに対する第一印象、このことについて後に訪問するワイナリーで何度か聞かれることになるのですが、それはオーストラリアのよう、というものでした。広大なオーストラリアと南北に細長いチリではいろいろと異なる点が多いのですが、空港からサンティアゴに向かう途中、一面に広がる乾燥した大地は私が旅したオーストラリアの風景の一部に良く似ていました。

 

着いた初日は日曜日ということもあり、ワイナリーが運営する市内のレストランに行ったくらいでワイナリーの訪問は無く、いよいよ翌日からワイナリー巡りが始まります。

 

まず訪れたのはサンティアゴ郊外に位置するアキタニアAquitaniaです。シャトー・コス・デストゥルネルの元オーナー、シャトー・マルゴーの総支配人、ボランジェの会長。これら錚々たる顔ぶれと、ボルドー大学で学んだ経験を持つフェリペ・ソルミニアック氏、4人が立ちあげたワイナリーで、名前からボルドーを意識していることが伺えます(ボルドー市が位置するのはフランス南西部、アキテーヌAquitaine地方。)。

 

サンティアゴの東側、高台に位置するこのワイナリーは、西側に街を一望することができ、東側にはさえぎる物の無いアンデス山脈を望むことができます。

DSC01320 

ここで実感したことは、考えてみればわかることなのですが、チリは東側に高い山脈が通っているので、朝の光がなかなか届かない、と言うことです(快晴のこの日、最初の光が差し込んできたのは9時15分でした。)。逆に言うと、山脈の反対側に位置するワイン産地、アルゼンチンのメンドーサなどでは、午後の西日がやや早い時間に山脈によって遮られるわけです。

 

さて、訪問させて頂いた日は、ちょうどぶどうの収穫の開始日でした。

DSC01327 収穫されたぶどう。

季節は秋です。朝は予想以上に寒かったですが、光が差し込んでくるとすぐに気温が上がっていきます。

 

旧式ながら性能の良い圧搾機、醸造用タンクなどを見学させて頂いて、その後試飲に移ります。

DSC01323 圧搾機。

DSC01322  ステンレス・タンク。

このワイナリーでは8種類のワインを試飲させて頂きましたが、特に強く印象に残っているのはチリ南部のぶどうで造られたワイン、ソル・デ・ソルSol de Solシリーズでした。このソル・デ・ソルのワインの原料となるぶどうは、チリのワイン産地の最南端、マジェコ・ヴァレーMalleco Valleyで栽培されたものです(※日本ではマジェコ・ヴァレーと表記・発音されることが多いようですが、現地の人はマヤコと発音していました。)。

 

南半球に位置するチリでは、北半球に位置する日本とは逆に、南に行くほど冷涼になります。チリで最南端のワイン産地と言うことは、チリで最も冷涼なワイン産地と言うことができると思います。実際、この土地はぶどう栽培には冷涼過ぎるとされ、現時点ではほとんどぶどう栽培が行われていない状況です。

 

さて、ソル・デ・ソルのワインに話を戻します。ピノ・ノワールの赤ワインとシャルドネの白ワインがあり、クールなニュアンスを持つピノ・ノワールも良かったのですが、シャルドネ(2009)にはびっくりさせられました。

 

まず、香りからして冷涼な土地を感じさせます。強い酸味を持っていそうな柑橘類、ミネラル、そこに樽から来るトーストの香りが混じり、グラスを回すとフローラルなニュアンスが現れます。味わいは果実味を上回る酸味があり、ボリュームは強すぎず、ボワゼ(樽由来の香り)が余韻にやや長く続いていきます。

 

まさにブルゴーニュのよう!それも、最近で言えば2008年のような、エレガントさを湛えた年のコート・ド・ボーヌの白、まるでピュリニー・モンラシェにありそうな高い完成度でした。

 

ワインをとても愛している方の中でも、チリのワインについて「安い。そしてあまり興味が無い。」と考えている方が少なくないのが日本の現状だと思います。実際、そのように思われても仕方の無いワインが存在しているのは確かだと思いますが、ワイン愛好家の胸を躍らせるワインも多く造られています。

 

今回の旅で、私が最も興味があった産地はビオビオ・ヴァレーBíobío Valleyでした(マヤコ・ヴァレーの北隣りに位置するワイン産地。)。この冷涼な土地で、エレガントな素晴らしいワインが生まれています。

 

しかしこの訪問で、さらに冷涼な産地の素晴らしいワインと出会うことができました。一言でチリのワイン、と言ってもたくさんの種類があります。きっと新しい発見がどこかにあるはずです。改めて、試してみてはいかがでしょうか?

 

Clos Yは、7月28日の12時から、「ワン・コイン単発ワイン講座」を行います。テーマは「チリ・ワインの最新情報」です!4種類のワインの試飲を含むワイン講座が500円で受けられます。ご都合の良い方は是非メールvinclosy@aol.comにてお申し込みください。

 

 

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ワイン・コラム 第130回 シャンパーニュ地方の話 畑の個性とブレンドについて

関東地方は梅雨真っただ中ですが、この雨季が終われば、真夏が私たちを待ち構えています。

 

暑い季節には酸味がしっかりとした爽やかな白ワインや、スパークリング・ワインに手が伸びますね。

 

この時期になるとワイン専門誌も「スパークリング・ワイン」をテーマにした記事が多くなります。今回は、スパークリング・ワインの中でもシャンパーニュChampagneについて少し考えてみたいと思います。

 

フランス北東部、パリの東に位置するシャンパーニュ地方では、通常の白ワイン、ロゼワイン、赤ワインも造られておりますが、生産されるワインのほとんどはスパークリング・ワインであるシャンパーニュです。

 

シャンパーニュが、いわゆる一般的なワインと異なる点は、シャンパーニュ地方のぶどうで造られる炭酸ガスを含んだ発泡性のワインであることの他に、複数挙げられます。

 

特に大きな点は、複数の収穫年のワインがブレンドされ、ひとつのワインになるということです。

 

一般的なワインは、ラベルに「2010」や「2011」など、そのワインの原料となったぶどうの収穫年が表記されています。消費者は、その情報から、ワインの質を予測し、購入の参考にすることができます。

 

例えば、ワイン売り場に、同じ生産者の「Gevrey-Chambertin」の2009と2010が同じ価格で売られているとします。2009のブルゴーニュ地方は温暖な気候のもとぶどうが完熟し、やや酸味が穏やかでボリューム感のあるワインができた年です。2010のブルゴーニュ地方は、クラシカルな、果実味と酸味のバランスの良いワインが出来た年です。ボリューム感のあるワインを飲みたい気分でしたら2009を購入、ある程度酸味のしっかりとしたフレッシュ感のあるワインを飲みたい気分でしたら2010を購入すれば良い、ということになります。

 

シャンパーニュについては、一部ヴィンテージ入りシャンパーニュ以外の、大半のシャンパーニュのラベルにはヴィンテージが記されておりません。これは、常に安定した品質を保つという目的を果たすために、複数の性格の異なる年のワインをブレンド=アッサンブラージュAssemblage)しているためです。

 

消費者は、難しいことは考えずに、例えばモエ・テ・シャンドンMoët et Chandonのブリュット・アンペリアルBrut Impérialなら、どのボトルも同じ品質であるという前提で安心してシャンパーニュを購入できるわけです。

 

シャンパーニュはアッサンブラージュの芸術、と言われることがありますが、言い得て妙、だと思います。

 

シャンパーニュのアッサンブラージュには、ヴィンテージだけでなく、ぶどう品種といった変数も含まれます。

 

シャンパーニュは単一品種(ピノ・ノワールPinot NoirやシャルドネChardonnayなど)で造られることもありますが、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエPinot Meunier、シャルドネの3品種のブレンドで造られるものが大半を占めます。

 

また、ピノ・ノワールひとつを取っても、ランスReims(シャンパーニュ地方の中心都市。シャガールのステンド・グラスがある立派な大聖堂が有名。)周辺のシャンパーニュ北部のピノ・ノワールと、レ・リセイLes Riceys周辺のシャンパーニュ地方南部のピノ・ノワールでは、明らかに品質が異なります。

Reims ランスの大聖堂

 Les Riceys レ・リセイ

このため、ひとつの安定した品質のシャンパーニュを毎年造るためには、3つの品種のバランス、それぞれのぶどう品種の生産地区による性質の違い、さらに過去のどのヴィンテージのものをどのような割合でブレンドするのか考えなければなりません。

 

未来のシャンパーニュ造りのために過去のワインをストックしておくことは資金面でも大変です。さらにシャンパーニュは必ず瓶内二次発酵方式という手間暇のかかる方法で造らなければならないため、本当に複雑な製造方法であると言うことができます。

 

このように書くと、本来自然の恵み、大地(テロワール)の特徴を表現するはずのワインから、シャンパーニュは大きく離れた工業的な産物と思われるかもしれません。

 

しかしシャンパーニュもワイン。生産者は土地を大切にし、その土地の個性を尊重しています。

 

一番良く知られている例として、サロンSalonを挙げることができるでしょう。単一品種(シャルドネ100%)、単一クリュ(ル・メニル・シュール・オジェLe Mesnil sur Ogier村のぶどう100%)、そして単一ヴィンテージ(複数年のワインのブレンドはせず、1999なら1999のぶどう100%でひとつのワインを造ります。)

Salon 職人 Salonの動瓶職人 

さらに、近年増えている小規模生産者の中には、単一畑のシャンパーニュにこだわるものもあります。

 

このような多様性が、多くの人を引き付け、シャンパーニュは世界中のスパークリング・ワインの頂点に居続けるのかもしれません。

 

次にシャンパーニュを口に含むとき、その香りと味わいの複雑さに注目してみてください。その1杯を造り出すために使われた長い年月、熟練の技が体と心に沁みていくことでしょう。

 

Clos Yは、7月17日のレストラン講座のテーマをシャンパーニュとし、アペリティフからデザートまで、5種類のシャンパーニュでフランス料理のコースをお楽しみ頂きます。注目の生産者オリヴィエ・オリオによる、単一品種(ピノ・ノワール100%)、単一ヴィンテージ(2006)、単一畑(バルモン)の希少なキュヴェも登場します!

 

 

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ワイン・コラム 第129回 ロワール地方の話 ディディエ・ダギュノー編

ワインの品質と価格のバランスは、必ずしも釣り合っているものではありませんが、ワインの価格はワインを選ぶうえでひとつの参考になるのは間違いないでしょう。

 

今回ご紹介するディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauは、世界で最も高価なソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancの白ワインを造る造り手です。

 

「ロワールの野生児」

「Enfants terribes恐ろしき子供たち」

 

など、畏敬を込められた数々の呼び名を持つディディエ・ダギュノー氏。

 

素晴らしく品質の高いワインは、造り手の風貌も相まって、カリスマ的な人気を博しています。

Didier Dagueneau ご夫婦で(2005年) 

ドメーヌは、ロワール川上流域、プイィ・フュメPouilly-Fuméのアペラシオン内にあります。このアペラシオンでは、ソーヴィニヨン・ブランによる白ワインのみが生産されています(ディディエ・ダギュノーは、ブラン・フュメ・ド・プイィBlanc Fumé de Pouillyという表記を用いています。)。

 

一般的なプイィ・フュメは、冷涼な気候を反映した、柑橘類やフレッシュ・ハーブの香りを持爽やかな白ワインですが、ディディエ・ダギュノーのワインは別格です。

 

やはり冷涼な気候を感じさせる豊かな酸味を備えていますが、上級キュヴェからはトロピカル・フルーツ系の香りも感じられ、樽から来るロースト香もあります。そして味わいには塩気も感じられ、強いミネラルの芯が通っています。ワインが若いうちは飲むのをじっとこらえて、熟成させてから飲むべき数少ないプイィ・フュメです。

 

この造り手のトップ・キュヴェ的なワインは、石の写真のラベルが印象的なシレックスSilexです。初めてこのワインを飲んだ時のことは今でもよく覚えています。芸術の域。大地からぶどうの樹が吸い上げたエッセンスを口に含んでいるような、スケールの大きさを感じさせてくれるワインでした。

 

その他のキュヴェとして、

 

ブラン・フュメ・ド・プイィ Blanc Fumé de Pouilly

 

ビュイッソン・ルナール Buisson Renard

 

ピュール・サン Pur Sang

 

サンセール ル・モン・ダネ シャヴィニョール Sancerre Le Mont Damné Chavignol

 

ジュランソン レ・ジャルダン・ド・バビロン Jurançon Les Jardins de Babylon

 

などがあります。いずれも素晴らしいワインです。

 

そして、自根(フィロキセラというぶどうの根に寄生する害虫対策として、アメリカ系のぶどうの台木に接ぎ木されていない)のソーヴィニヨンから造られるアステロイドAstéroïdeがあります。

 

私はこのドメーヌを、2005年に訪問させて頂きました。現在では世界中で360以上の造り手を訪問させて頂いておりますが、約束の時間に遅れることはまずなく、大体早く着くのですが、この造り手に限り、道に迷い約束の時間に遅れてしまいました。しかし笑顔で、ワインを試飲させて頂いたのを覚えております。

 

残念ながらディディエ・ダギュノー氏は2008年に飛行機事故で亡くなってしまいましたが、彼が造ったワインはこれから先、何年、何十年と優美に熟成を続けて行くことでしょう。そしてドメーヌは、現在は息子さんたちが引き継ぎ、運営されています。

 

ソーヴィニヨン・ブランというぶどう品種のひとつの頂点を経験したい方、強いミネラル感を持つワインを経験したい方、純粋においしいワインを飲みたい方...是非、ある程度の熟成を経た(できれば8年以上)ディディエ・ダギュノーのワインを飲んでみてください。ワインに対する新たな視点ができるかもしれません。

 

Clos Yは、7月14日のワイン祭りのラインナップに、ディディエ・ダギュノーのブラン・フュメ・ド・プイィ2004も含めております。ご興味のある方はご連絡ください。

 

 

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ワイン・コラム 第128回 アルザス地方の話 ドメーヌ・ヴァインバック編

日本で行われるプロ向けのワイン試飲会の時もそうなのですが、私はワインの造り手さんを訪問して、ワインを試飲させて頂く場合には、口に含んだワインを飲み込まずに吐き出すようにしています(専用の吐器があります。)。

 

造り手を訪問する時は基本的に車で行きますので、飲酒運転をしないように、ということもありますが、多い場合には30種類近くのテイスティングがありますので、全て飲み込んでいられないというのが主な理由です。

 

大抵の場合は口に含んだワインを吐き出すことに抵抗はありませんが、時にどうしても飲んでしまいたくなる、壮絶に魅力的なワインがあります。

 

今回ご紹介するドメーヌ・ヴァインバックDomaine Weinbachは、そのような数少ない極上のワインを生みだす造り手です。

Weinbach 

この造り手は、フランス北東部に位置するアルザスAlsace地方でぶどうの栽培とワイン造りを行っています。この地方のみならず、フランス全土で見ても屈指のワイン生産者です。

 

私がこの造り手を訪問させていただいたのは2008年の9月のことでした。ドメーヌはアルザス地方南部の重要な町コルマールColmarの北西約10km、ケゼルスベールKaysersbergの東側、ぶどう畑の真っただ中、素晴らしいワインを生みだす特級畑シュロスベルクSchlossbergの麓に位置しています。

 

アルザス地方でも、ブルゴーニュ地方のように偉大なワインは偉大な特級畑から生まれることがほとんどです。シュロスベルクという畑は複数の生産者により所有されておりますが、ヴァインバックは最大規模の所有者となっています。

Weinbach4 シュロスベルク 南向きの斜面。 

ドメーヌではたくさんのワインを試飲させて頂きましたが、強く印象に残っているのはこのシュロスベルク畑のリースリングのワインです。

 

ブルゴーニュ地方では、一般的にはひとつの畑からひとつのワインが生まれます(例えば、シャンベルタンと言う畑からはシャンベルタンという赤ワイン、モンラシェという畑からはモンラシェという白ワイン、など。)。しかし、アルザス地方では、ドイツのように、ひとつの畑から複数のワインが造られます。

 

今回、シュロスベルクを例にしてみると、まずはアルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリングAlsace Grand Cru Schlossberg Rieslingという辛口白ワインがあります。絵に描いたような良質リースリングで、香り高く、果実味、酸味共にしっかりしていて、密度の高い、長期熟成に耐えるワインです。

 

それから、同じ畑の中の、樹齢の古い区画のぶどうによるキュヴェ・サント・カトリーヌ リネディ!Cuvée Sainte Cathrine L’Inédit !というキュヴェがあります。

 

そして甘口ワインも造られます。アルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリング ヴァンダンジュ・タルディヴAlsace Grand Cru Riesling Vendanges Tardives。いわゆる遅摘みワインで、甘味と酸味のバランスが良く、ミネラル感もしっかりとしている、世界的に見てもあまり他に類を見ないワインです。

 

さらに凝縮感の強いワインが、貴腐ワインであるセレクション・ド・グラン・ノーブルSélection de Grains Noblesです。粒選りで収穫されたぶどうによる、偉大なワインです。世界中のワインはあらゆる人に開かれていて(生産量と価格の問題を除けば)、楽しむべき飲み物だと思いますが、このような次元のワインは、神酒と言いますか、対峙すると自然と背筋が伸び、その世界に引きずり込まれて行くような、特別感のある液体でした。

 

さらにその上を行くのが、カンテッサンス・ド・グラン・ノーブルQuintessence de Grains Noblesです。これもシュロスベルクの畑のぶどうから、しかし特別な年にだけ造られるワインです。このワインは、まさに口に含めば飲み込まずにいられないワインです。もう、どうしたらいいのでしょう。ただただ偉大なテロワール、そして造り手に感動するのみです...

 

アルザス地方のワインは、フランスワインの中でも人気の高いワインだと思いますが、51あるアルザス・グラン・クリュの特徴も含め、まだ深く追求されていない部分が多いように思われます。

 

軽やかでお手頃なワインから、時にはこのヴァインバックのように偉大なワインまで、これからの季節は特にお楽しみただけることでしょう。是非試してみることをお勧めします!

 

Clos Yは7月7日のレストラン講座のテーマを「アルザス」とし、選りすぐったアルザス・ワインを南青山「アンカシェット」の洗練されたフランス料理とお楽しみ頂きます。ドメーヌ・ヴァインバックのグラン・クリュ シュロスベルク ヴァンダンジュ・タルディヴも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。

 

 

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ワイン・コラム 第127回 ロワール地方の話 ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ編

フランス最長の川、ロワールLoire沿いに広がる、フランス北西部に位置するワイン産地ロワール地方。
Loire2

Loire3 

この地方の西部、大西洋近くにはナントNantesという大きな町があります。そこからロワール川をさかのぼる形で東に進むと、トゥールToursという大きな町があります。

 

ナント周辺では主にミュスカデMuscadetというぶどうが栽培されていて、酸味がしっかりとした、爽やかな白ワインが造られています。

 

トゥール周辺では、主にシュナン・ブランChenin Blancというぶどうが栽培されていて、ミネラル感の強い辛口から豊かな味わいの甘口、さらにはスパークリング・ワインまで、多彩な白ワインが造られています。

 

そのトゥールから南東に50kmほどいったところに、ドメーヌ・デ・ボワ・ルカDomaine des Bois Lucasがあります。

 

2002年が初ヴィンテージのこの造り手は、日本人女性が当主で、自ら栽培、醸造を担当しています。

 

私がこの造り手を訪問させていただいたのは2005年の3月のことです。その際に試飲させていただいたソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancに私は衝撃を受けました。

 

当時私はボルドーBordeauxに住んでいて、グラーヴ地区のシャトーで収穫から醸造まで経験しました。ボルドーのソーヴィニヨン・ブランの特徴はある程度把握しておりましたし、ロワール地方のソーヴィニヨン・ブラン、例えばサンセールSancerreやプイィ・フュメPouilly-Fuméの特徴も(ディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauのような例外的なワインも含めて)把握していたと思います。

 

しかしこの造り手のソーヴィニヨン・ブランは、今までに経験してきたどのようなソーヴィニヨン・ブランとも異なる、まさに驚くべきものでした。

 

熟したエキゾチックなフルーツ、ボワゼ、ミネラルが一体となった複雑な香り。ボルドーともロワールとも、新世界、例えばニュージー・ランドのソーヴィニヨン・ブランとも違う、個性的な香りです。味わいは果実味に厚みがあり、酸味もしっかり。余韻が長く続いていきます。

 

偉大なワイン、というべき完成度ですが、硬さが無くしなやかで、優しい感じです。このワインは、補糖もせず、限りなくナチュラルに造られているのですから、原料となるぶどうはどれほど素晴らしいものかと思いました。

 

栽培はビオディナミを採用しているようです。そして収穫量が少ない!良いワインを造るために、ぶどうの収穫量はあまり品質と関係が無い、と言う造り手もいますが、私はぶどうの収穫量はワインの品質に直接関係してくる重要な要素であると思っております(特に赤ワインの場合)。

 

しかしこれほどのワインを、まだ新しい(言わば経験の浅い)造り手が、しかも偉大なテロワールと認識されてこなかった土地(アペラシオンはトゥーレーヌTouraine)で造ってしまうのは本当にすごいことだと思います。

 

世界的に名の知られている銘醸地ではないところで、真新しい造り手がいきなり偉大なワインを造る。このようなことはそうあることではないと思います。しかし、あるにはある。そのようなワインを見逃さずに、今後もご紹介していけるようにしたいと思います。

 

Clos Yは、6月2日のレストラン講座のテーマを「ロワール」とし、ロワール地方から厳選した素晴らしいワインをそれに合わせた料理とお楽しみ頂きます。ボワ・ルカのソーヴィニヨン・ブラン2006のキュヴェ違い水平を経験頂けます!ご興味がございましたらご連絡ください。

 

 

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