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ワインコラム 第12回 ボルドー研修編 その4 シャトーでの日々の話

私はボルドーのシャトー・ラトゥール・マルティヤックで2004年の9月と10月に仕事をさせてもらったのですが、この時期はワイン産業で最も忙しい時です。2004年は9月上旬に白ぶどうの収穫を行い、9月末から10月半ば頃にかけて黒ぶどうの収穫を行いました。収穫、醸造についてはコラムの9回、10回、11回で書いたとおりです。

 

今回は、収穫、醸造以外のお話をご紹介いたします。

 

白ワインの仕事がひと段落すると、黒ぶどうの収穫が近づいてきます。毎日畑に出て、広い畑の様々な場所から黒ぶどうのサンプルを取り、シェ(醸造所)に持ち帰ります。シェでそのぶどうを搾り、果汁の糖度、酸度などを計り、収穫日を決定するわけです。

 

みなさん、ぶどうを搾ったことがありますか?本格的な醸造では機械を使ってやりますが、バケツ一杯ほどのサンプルは手でぶどうを潰します。ボルドーの黒ぶどうは粒が小さく、果皮が厚く、けっこう力を入れないとうまく果汁が出てきません。思ったより大変な作業でした。

 

シャトー・ラトゥール・マルティヤックではワインの熟成にバリック(225リットル容量の樽)を使うのですが、毎年新樽を購入する一方で、1年前、2年前の使用済みの樽も使います。ワインを樽に入れる時期が近付くと、古樽を洗う作業をします。どのように樽を洗うかと言うと、シャトーの一角に噴水状に水が出る棒があります。その棒を樽に空いている小さな穴に入れ、洗浄します。そこまで樽を運んでいくのですが...

 

中身が空の樽はなんとか持ち上げることができます。しかし樽を移動させるときにいちいち持ち上げて運んでいては体がもちません。熟練したシャトーの従業員は、軽やかにすいすい樽を回して移動させます。私も挑戦してみたのですが、これが難しい!まっすぐ進みませんし、スピードは遅いし...樽を洗う作業は大変でした!

 

洗うと言えば、忙しい醸造期間の間、一番大変だったのは一日の仕事の最後に行う清掃作業でした。

 

季節労働者を含む収穫部隊は17時頃に仕事が終わると解散!になるのですが、醸造チームの仕事はまだまだ続きます。ぶどうが新鮮なうちに処理を終えると、その日に使ったあらゆる道具を洗います。カジェット(収穫に用いる小さなかご)、プレスマシン、長いホース、ベルトコンベアー...全てです!

 

一番大変だったのは床かもしれません。シャトー・ラトゥール・マルティヤックはそれほど大きなシャトーではないのですが、それでも床に散らばったぶどうを隅から隅までかき集めて、水で流すのは時間がかかりました。そこまでやるの!?というくらいきれいに掃除をしていましたが、考えてみると食品を造っているわけですから、当然ですよね。

 

シェはぴかぴか、体はぐったりで家に帰る日々でした。でも、楽しかったです!同僚は親切でしたし、ぶどう畑に囲まれて、おいしいワインを造ることができたのですから!

 

同僚といえば、私の他にも「研修生」が数人いました。シャトー・ムートン・ロートシルトの(当時の)醸造長の息子さんや、フランス南西部でワインを造っている一家の跡取り娘、ボルドー大学の学生、イスラエルからワイン造りを学びに来ている人まで様々でした。

 

シャトーの従業員で面白かったのがオーナーと生年月日が同じというギイおじさん。優雅なオーナーと対照的に樽のような体型をしていて、少しとぼけたようなギイさんはみんなの人気者でした。彼は特に樽関係の仕事を任されていました。シャトーを訪問したことがある方は、樽熟成室に整然と樽が並んでいる様に感動した経験がおありかもしれないですが、ギイおじさんは測量技師のような感じで、糸を使って何やら測り、樽をきれいに直線に配置していました。

 

あるとき、樽を少しだけ動かしたい場面があったのですが、その時に中身が入っている樽をギイおじさんが持ち上げた時は拍手喝采でした。ものすごく重いですから!!今でも信じられません...

 

シャトーでの2ヵ月はあっという間に終わってしまいました。私はボルドーに1年間住んでいたのですが、残りの10ヵ月はワイン産地を回ったり、近所のビストロで働いたりして過ごしました。

 

次回は、ボルドー市内をご紹介いたします。

e382b7e383a3e38388e383bce5a495e784bce38191シャトーの畑。 

 

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