- 2009-05-28 (木) 16:35
- ワインコラム
前回までのコラムではヨーロッパのワイン産地を紹介してきました。土地に根付いた素晴らしいワインはそれ単体でもとてもおいしいのですが、郷土料理と合わせるとその魅力は倍増します。今回は南フランスからスペインにかけての郷土料理をご紹介したいと思います。
まずはフランス南西部、スペインとの国境付近、ワイン産地で言うとイルレギーがある地方です。この辺りはバスク地方 ( basque ) と呼ばれ、バスク地方自体は南西フランスから北東スペインにまたがっています。独自の文化を持ち、バスク人と呼ばれる人々は独自の言語を話し(フランス側では、もちろんフランス語も通じますが)ます。
フランスには全ての町、村の出入り口にその町、村の名前が書いてある標識があるのですが、バスク地方に来るとその標識の文字がフランス語とバスク語の2つの言語で記されてあります。
バスク地方が誇る独自の文化は料理にも見られます。トマトやとうがらし、生ハムを使った料理やガトー・バスクと呼ばれるデザートが代表的です。手間暇をかけて素材を昇華させるというよりも、上等な食材をシンプルに調理するタイプの料理が多いようです。特に有名な食材としては、まずはバイヨンヌの生ハムが挙げられるでしょう。南フランスのバスク地方の中心となる町のひとつ、バイヨンヌ周辺で作られる生ハムで、地理的表示保護を取得している上質なものです。薄くスライスしてそのまま前菜に出されたり、ピペラドという野菜のトマト煮込みに入っていたりします。
それとは別にこの地方には高級な豚肉があります。ビゴール豚 (bigorre)と言う名の黒豚で、野生に近い環境で高品質な餌のみを食べて育ちます。赤みの強い肉質は実に上質で、豚肉ながら上質な牛肉にも劣らない値で取引されています。Le Noir de Bigorreという生ハムが有名ですが、フレッシュな肉をシンプルに塩、胡椒のみで味付けしたローストも絶品です!
私はバイヨンヌで、郷土料理に力を入れていそうなお店を選んで入ったのですが、メニューを見て困ってしまいました。料理名が全てバスク語で書かれていて、どのような料理なのか想像もできなかったのです。サービスの方に簡単に料理を説明してもらい、オーダーしたのはこのような料理でした。
いかなどの魚介類が入ったパイ、きのこと羊肉などの薄いパイ生地包み焼きです。ワインはフランス南西部のベアルン (Béarn) がロゼ、赤とハーフボトルであったので、それぞれの料理と合わせてみました。合わないわけがありませんね!このような組み合わせを経験できるのは至福のひとときです。
デザートの前にチーズをオーダーしました。ピレネー山脈の麓であるこの地方は羊のチーズも特産品の1つで、チェリーなどのジャムと一緒に食されます。ミルクが凝縮されたような豊かな風味のチーズは塩味がやや強く、甘いジャムと良い相性でした。デザートには定番のガトー・バスクをいただきました。
つづいてスペインです。スペイン料理と言えば、代表格はパエリヤでしょうか?専用の浅くて広いパエリヤ鍋で調理する米料理ですね。みなさまは具は何を想像しますか?海老などの魚介類でしょうか?確かに魚介類のパエリヤはおいしいですが、実際は地方ごとに中身に特徴があるようです。私が数日滞在させてもらったスペイン南東部の友人の家では、うさぎ肉をよく用いるとのことでした。
スペインの夜と言えば、バルですね!老若男女が集まり、軽いおつまみを食べながらビールやワインを飲んでいます。バルでの軽いおつまみの総称をタパスといいます。代表的なものとして、スペイン風オムレツトルティーヤや、きのこのガーリックオイル煮、いわしのマリネやたこのパプリカ風味などがあります。手でつまんで食べるような気軽なもので、あらゆる飲み物と楽しめると思いますが、シェリーの産地でフィノと呼ばれる辛口タイプのシェリーを飲みながら食べたタパスはとてもおいしかったです。
フランス料理に、テット・ド・ヴォー (tête de veau) というものがあります。テットは頭、ヴォーは仔牛という意味で、直訳すると「仔牛の頭」ということになります。実際は仔牛の頭肉を使った料理のことです。頭肉はゼラチン質が多くねっとりとしているので、マスタードやヴィネグレットなどさっぱりとしたソースを添えることが多いです。私はこの料理が好きで、スペインでこのような表記の料理が目に付いたのでオーダーしました。すると注文を受けてくれたサービスの方が「大丈夫か?」と聞いてきたのです。もちろん、私の好きな料理ですから、大丈夫だと答えたのですが...出てきたのは半割にされた頭蓋骨のローストで、どうやら脳みそを食べる料理のようです!
写真があるのですが、載せるのはやめておきます。興味のある方はご連絡ください(笑)。
次回から、ボルドーのシャトーでの研修の話に入ります!
このコラムを読まれて、何かご意見、ご感想がございましたらご連絡ください。
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