- 2009-05-08 (金) 11:30
- ワインコラム
アラン・ブリュモン氏のワイナリーを後にした私は、フランス南西部では比較的大きな町、ポーを経て、「ジュランソン」というワイン産地に向かいました。
この辺りまで来ると、本当に田舎です。ピレネー山脈に近いこともあり、起伏の多い土地には青々と木が茂っています。
ジュランソンは村の名前ですが、同時にその周辺で造られているワインの名前でもあります。ジュランソンのワインには大きく2つのタイプがあります。ひとつは香り高い辛口白ワイン。もうひとつは、ぶどうの収穫を遅らせてぶどうの糖度を高めて造る、甘口白ワインです。この甘口タイプは、場合によっては極上のソーテルヌをも凌ぐ、偉大なワインになり得る可能性を秘めています。
私はこの地区で2つの造り手を訪問しました。いずれも、フランス国内外で高い評価を得ています。まずは、クロ・ウルラです。
15haの畑を所有し、家族で運営しているドメーヌ(=ボルドーでのシャトーに相当する単語。)です。村から離れた所にあり、森の中の小道を進んできます。狭い坂道では車がすれ違えないほどで、対向車が来ないことを真剣に祈りながら、ようやくたどり着きました。小ぢんまりとした醸造所で、野性的な風貌のムッシュが案内してくれました。やはりこの辺りまで来ると、フランス語の発音もボルドーとは異なってきます。聞き取りに苦労しながらも、高品質なワイン造りへの取り組みを伺いました。このドメーヌは、甘口タイプが素晴らしいのですが、同時に私がお勧めしたいのが辛口タイプの白ワインです。キュヴェ・マリーという名で、娘さんの名前が付けられています。熟した果実、ミネラルなどの充実した香り、しっかりとした果実味と酸味を併せ持ち、実に高品質で、きらきら輝くような魅力を持ったワインです。このようなワインに、このような山奥?の静かな場所で出会うと、素晴らしい宝物を見つけたような気分になります(笑)。
優しいムッシュに別れを告げ、続いてドメーヌ・コアペに向かいました。
クロ・ウルラからあまり離れていないのですが、例の山道をくねくねと行かなければならず、ここもたどり着くまで苦労しました。こちらは40haの畑を所有し、一見普通の家のようだったクロ・ウルラよりもワイナリー的です。コアペも辛口、甘口両方造っていますが、このドメーヌは甘口を何種類かに造り分けています。遅摘みの場合、単純に言ってしまうと収穫を遅らせれば遅らせるほど甘いぶどうが収穫できます。そこで、「10月のバレエ」、「11月のシンフォニー」などと名をつけた、それぞれ10月収穫のぶどう、11月収穫のぶどうでできるキュヴェを造っているのですが、「10月のバレエ」より「11月のシンフォニー」のほうが全体的に凝縮感があり、濃密です。その中でも、出色のものが「カンテサンス・デュ・プチ・マンサン」というキュヴェで、収穫は何とクリスマスの頃になるそうです。世界的に見ても12月にぶどうを収穫するのは例外的です。
単純に収穫を遅らせると書きましたが、実はこの行為は大変なリスクを伴っています。自然の中に、甘くておいしいぶどうを放置するわけです。鳥獣には常に狙われ続けますし、雹など自然の気まぐれが一度でもおこれば一瞬で収穫が無くなってしまいます。ぶどう栽培者にとってぶどうは本当に財産ですから、リスクを背負いながら財産を放置しておくのは尋常な作業ではないと思います。
さて、このワインは、すごいです!!香り、味わいともに濃密で、力強いのですが同時に何とも表現し難いエレガンスが表現されていて、造ろうと思ってもなかなか到達できない領域に入っています。まさに、自然と人が生んだ芸術ですね。思い出すだけでため息が出るような、偉大なワインです!
余韻に浸りながら、ドメーヌ・コアペを後にした私は、フランス最南西の産地、イレルギーを目指しました。途中、バスク地方の美しい町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーを通ったのですが、このあたりで突然霧に包まれて、どきどきしたのを覚えています。ピレネー山脈のふもとの、山地ですので、起伏が多く走っても走ってもなかなか距離が縮まりません。ようやくイレルギーにたどり着いたときには、すでに17時30分になっていました。まだ明るいのですが、ワイナリーは閉まってしまう時間です。
ぎりぎり滑り込んだのは、ドメーヌ・アレッチャです。ゆっくりお話を伺うことができなかったのですが、テイスティングをし、畑を見られたことは大きな収穫でした。やはりここにも独自のテロワールがあります。起伏の多い土地に、やや高く仕立てられたぶどうがワイヤーで固定され、きれいに並んでいます。この時期はまだぶどうは緑色で小さく硬かったのですが、南の太陽をたっぷりと受けて、甘いぶどうが収穫されるでしょう。
ここまで来ると、スペインはもう目と鼻の先です。次回はいよいよスペインのお話です。
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