私にとって初のチリ、さらに初の南米大陸の経験でした。
成田からパリへ約12時間。パリで6時間過ごし、さらにチリの首都サンティアゴSantiagoまで約13時間半。
サンティアゴの手前でアンデス山脈を越えるのですが、朝日に染まるアンデス山脈はそれは美しいものでした。南米に来た!と実感したものです。
着いたのは日曜日の朝でしたが、なかなかきつい状態での旅の始まりになりました。
しかし空港を出て、乾燥した空気に包まれ、強い日差しを浴び、チリに来たことを実感。初めての土地への期待で疲れはどこかへ行ってしまいました。
チリに対する第一印象、このことについて後に訪問するワイナリーで何度か聞かれることになるのですが、それはオーストラリアのよう、というものでした。広大なオーストラリアと南北に細長いチリではいろいろと異なる点が多いのですが、空港からサンティアゴに向かう途中、一面に広がる乾燥した大地は私が旅したオーストラリアの風景の一部に良く似ていました。
着いた初日は日曜日ということもあり、ワイナリーが運営する市内のレストランに行ったくらいでワイナリーの訪問は無く、いよいよ翌日からワイナリー巡りが始まります。
まず訪れたのはサンティアゴ郊外に位置するアキタニアAquitaniaです。シャトー・コス・デストゥルネルの元オーナー、シャトー・マルゴーの総支配人、ボランジェの会長。これら錚々たる顔ぶれと、ボルドー大学で学んだ経験を持つフェリペ・ソルミニアック氏、4人が立ちあげたワイナリーで、名前からボルドーを意識していることが伺えます(ボルドー市が位置するのはフランス南西部、アキテーヌAquitaine地方。)。
サンティアゴの東側、高台に位置するこのワイナリーは、西側に街を一望することができ、東側にはさえぎる物の無いアンデス山脈を望むことができます。
ここで実感したことは、考えてみればわかることなのですが、チリは東側に高い山脈が通っているので、朝の光がなかなか届かない、と言うことです(快晴のこの日、最初の光が差し込んできたのは9時15分でした。)。逆に言うと、山脈の反対側に位置するワイン産地、アルゼンチンのメンドーサなどでは、午後の西日がやや早い時間に山脈によって遮られるわけです。
さて、訪問させて頂いた日は、ちょうどぶどうの収穫の開始日でした。
収穫されたぶどう。
季節は秋です。朝は予想以上に寒かったですが、光が差し込んでくるとすぐに気温が上がっていきます。
旧式ながら性能の良い圧搾機、醸造用タンクなどを見学させて頂いて、その後試飲に移ります。
圧搾機。
ステンレス・タンク。
このワイナリーでは8種類のワインを試飲させて頂きましたが、特に強く印象に残っているのはチリ南部のぶどうで造られたワイン、ソル・デ・ソルSol de Solシリーズでした。このソル・デ・ソルのワインの原料となるぶどうは、チリのワイン産地の最南端、マジェコ・ヴァレー※Malleco Valleyで栽培されたものです(※日本ではマジェコ・ヴァレーと表記・発音されることが多いようですが、現地の人はマヤコと発音していました。)。
南半球に位置するチリでは、北半球に位置する日本とは逆に、南に行くほど冷涼になります。チリで最南端のワイン産地と言うことは、チリで最も冷涼なワイン産地と言うことができると思います。実際、この土地はぶどう栽培には冷涼過ぎるとされ、現時点ではほとんどぶどう栽培が行われていない状況です。
さて、ソル・デ・ソルのワインに話を戻します。ピノ・ノワールの赤ワインとシャルドネの白ワインがあり、クールなニュアンスを持つピノ・ノワールも良かったのですが、シャルドネ(2009)にはびっくりさせられました。
まず、香りからして冷涼な土地を感じさせます。強い酸味を持っていそうな柑橘類、ミネラル、そこに樽から来るトーストの香りが混じり、グラスを回すとフローラルなニュアンスが現れます。味わいは果実味を上回る酸味があり、ボリュームは強すぎず、ボワゼ(樽由来の香り)が余韻にやや長く続いていきます。
まさにブルゴーニュのよう!それも、最近で言えば2008年のような、エレガントさを湛えた年のコート・ド・ボーヌの白、まるでピュリニー・モンラシェにありそうな高い完成度でした。
ワインをとても愛している方の中でも、チリのワインについて「安い。そしてあまり興味が無い。」と考えている方が少なくないのが日本の現状だと思います。実際、そのように思われても仕方の無いワインが存在しているのは確かだと思いますが、ワイン愛好家の胸を躍らせるワインも多く造られています。
今回の旅で、私が最も興味があった産地はビオビオ・ヴァレーBíobío Valleyでした(マヤコ・ヴァレーの北隣りに位置するワイン産地。)。この冷涼な土地で、エレガントな素晴らしいワインが生まれています。
しかしこの訪問で、さらに冷涼な産地の素晴らしいワインと出会うことができました。一言でチリのワイン、と言ってもたくさんの種類があります。きっと新しい発見がどこかにあるはずです。改めて、試してみてはいかがでしょうか?
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