造り手を訪問する時は基本的に車で行きますので、飲酒運転をしないように、ということもありますが、多い場合には30種類近くのテイスティングがありますので、全て飲み込んでいられないというのが主な理由です。
大抵の場合は口に含んだワインを吐き出すことに抵抗はありませんが、時にどうしても飲んでしまいたくなる、壮絶に魅力的なワインがあります。
今回ご紹介するドメーヌ・ヴァインバックDomaine Weinbachは、そのような数少ない極上のワインを生みだす造り手です。
この造り手は、フランス北東部に位置するアルザスAlsace地方でぶどうの栽培とワイン造りを行っています。この地方のみならず、フランス全土で見ても屈指のワイン生産者です。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2008年の9月のことでした。ドメーヌはアルザス地方南部の重要な町コルマールColmarの北西約10km、ケゼルスベールKaysersbergの東側、ぶどう畑の真っただ中、素晴らしいワインを生みだす特級畑シュロスベルクSchlossbergの麓に位置しています。
アルザス地方でも、ブルゴーニュ地方のように偉大なワインは偉大な特級畑から生まれることがほとんどです。シュロスベルクという畑は複数の生産者により所有されておりますが、ヴァインバックは最大規模の所有者となっています。
シュロスベルク 南向きの斜面。
ドメーヌではたくさんのワインを試飲させて頂きましたが、強く印象に残っているのはこのシュロスベルク畑のリースリングのワインです。
ブルゴーニュ地方では、一般的にはひとつの畑からひとつのワインが生まれます(例えば、シャンベルタンと言う畑からはシャンベルタンという赤ワイン、モンラシェという畑からはモンラシェという白ワイン、など。)。しかし、アルザス地方では、ドイツのように、ひとつの畑から複数のワインが造られます。
今回、シュロスベルクを例にしてみると、まずはアルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリングAlsace Grand Cru Schlossberg Rieslingという辛口白ワインがあります。絵に描いたような良質リースリングで、香り高く、果実味、酸味共にしっかりしていて、密度の高い、長期熟成に耐えるワインです。
それから、同じ畑の中の、樹齢の古い区画のぶどうによるキュヴェ・サント・カトリーヌ リネディ!Cuvée Sainte Cathrine L’Inédit !というキュヴェがあります。
そして甘口ワインも造られます。アルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリング ヴァンダンジュ・タルディヴAlsace Grand Cru Riesling Vendanges Tardives。いわゆる遅摘みワインで、甘味と酸味のバランスが良く、ミネラル感もしっかりとしている、世界的に見てもあまり他に類を見ないワインです。
さらに凝縮感の強いワインが、貴腐ワインであるセレクション・ド・グラン・ノーブルSélection de Grains Noblesです。粒選りで収穫されたぶどうによる、偉大なワインです。世界中のワインはあらゆる人に開かれていて(生産量と価格の問題を除けば)、楽しむべき飲み物だと思いますが、このような次元のワインは、神酒と言いますか、対峙すると自然と背筋が伸び、その世界に引きずり込まれて行くような、特別感のある液体でした。
さらにその上を行くのが、カンテッサンス・ド・グラン・ノーブルQuintessence de Grains Noblesです。これもシュロスベルクの畑のぶどうから、しかし特別な年にだけ造られるワインです。このワインは、まさに口に含めば飲み込まずにいられないワインです。もう、どうしたらいいのでしょう。ただただ偉大なテロワール、そして造り手に感動するのみです...
アルザス地方のワインは、フランスワインの中でも人気の高いワインだと思いますが、51あるアルザス・グラン・クリュの特徴も含め、まだ深く追求されていない部分が多いように思われます。
軽やかでお手頃なワインから、時にはこのヴァインバックのように偉大なワインまで、これからの季節は特にお楽しみただけることでしょう。是非試してみることをお勧めします!
Clos Yは7月7日のレストラン講座のテーマを「アルザス」とし、選りすぐったアルザス・ワインを南青山「アンカシェット」の洗練されたフランス料理とお楽しみ頂きます。ドメーヌ・ヴァインバックのグラン・クリュ シュロスベルク ヴァンダンジュ・タルディヴも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。
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