この地方の西部、大西洋近くにはナントNantesという大きな町があります。そこからロワール川をさかのぼる形で東に進むと、トゥールToursという大きな町があります。
ナント周辺では主にミュスカデMuscadetというぶどうが栽培されていて、酸味がしっかりとした、爽やかな白ワインが造られています。
トゥール周辺では、主にシュナン・ブランChenin Blancというぶどうが栽培されていて、ミネラル感の強い辛口から豊かな味わいの甘口、さらにはスパークリング・ワインまで、多彩な白ワインが造られています。
そのトゥールから南東に50kmほどいったところに、ドメーヌ・デ・ボワ・ルカDomaine des Bois Lucasがあります。
2002年が初ヴィンテージのこの造り手は、日本人女性が当主で、自ら栽培、醸造を担当しています。
私がこの造り手を訪問させていただいたのは2005年の3月のことです。その際に試飲させていただいたソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancに私は衝撃を受けました。
当時私はボルドーBordeauxに住んでいて、グラーヴ地区のシャトーで収穫から醸造まで経験しました。ボルドーのソーヴィニヨン・ブランの特徴はある程度把握しておりましたし、ロワール地方のソーヴィニヨン・ブラン、例えばサンセールSancerreやプイィ・フュメPouilly-Fuméの特徴も(ディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauのような例外的なワインも含めて)把握していたと思います。
しかしこの造り手のソーヴィニヨン・ブランは、今までに経験してきたどのようなソーヴィニヨン・ブランとも異なる、まさに驚くべきものでした。
熟したエキゾチックなフルーツ、ボワゼ、ミネラルが一体となった複雑な香り。ボルドーともロワールとも、新世界、例えばニュージー・ランドのソーヴィニヨン・ブランとも違う、個性的な香りです。味わいは果実味に厚みがあり、酸味もしっかり。余韻が長く続いていきます。
偉大なワイン、というべき完成度ですが、硬さが無くしなやかで、優しい感じです。このワインは、補糖もせず、限りなくナチュラルに造られているのですから、原料となるぶどうはどれほど素晴らしいものかと思いました。
栽培はビオディナミを採用しているようです。そして収穫量が少ない!良いワインを造るために、ぶどうの収穫量はあまり品質と関係が無い、と言う造り手もいますが、私はぶどうの収穫量はワインの品質に直接関係してくる重要な要素であると思っております(特に赤ワインの場合)。
しかしこれほどのワインを、まだ新しい(言わば経験の浅い)造り手が、しかも偉大なテロワールと認識されてこなかった土地(アペラシオンはトゥーレーヌTouraine)で造ってしまうのは本当にすごいことだと思います。
世界的に名の知られている銘醸地ではないところで、真新しい造り手がいきなり偉大なワインを造る。このようなことはそうあることではないと思います。しかし、あるにはある。そのようなワインを見逃さずに、今後もご紹介していけるようにしたいと思います。
Clos Yは、6月2日のレストラン講座のテーマを「ロワール」とし、ロワール地方から厳選した素晴らしいワインをそれに合わせた料理とお楽しみ頂きます。ボワ・ルカのソーヴィニヨン・ブラン2006のキュヴェ違い水平を経験頂けます!ご興味がございましたらご連絡ください。
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