- 2012-03-31 (土) 14:45
- ワインコラム
レストラン講座とは、テーマのワインを、それに合わせた料理と共に講師の解説付きで楽しむことができる、ワインの勉強と楽しみを同時に体験して頂ける講座です。
参加者はレストラン講座に参加すると、テーマのワインについて学ぶことが出来、またワインと料理のマリアージュもお楽しみ頂けることになります。
今回は、そんなレストラン講座がどのように組み立てられているのか、その裏側をご紹介したいと思います。
まずはワインのテーマを決めることから始まります。毎月第3水曜日の20時から、池袋のオザミ・サンカントヌフにて行われる「世界の銘醸地を巡る!」を例にしたいと思います。この講座はその名の通り、世界のワイン銘醸地がテーマになっております。
1年分、つまり12回分のテーマを決めるにあたり、まずはボルドー、ブルゴーニュなど、外すことのできない人気の産地をテーマとして決定します。残りは、スペインなど今勢いのある産地や、イギリスなど認知度は低いものの要注目の産地を取り上げます。
その後、季節に合わせてテーマを割り振ります。例えば、ボルドーやローヌのように重厚な赤ワインが中心となる産地は冬季に、シャンパーニュやロワールなど軽快な白ワインが中心となる産地は夏季に持って行きます。
テーマが決まったら、具体的にワインの選定に入ります。これは正直、楽しくも難しい作業です。例えばひと口にボルドーと言っても、上質な白ワインもあればメルロ主体の赤ワインもあり、カベルネ主体の赤ワインもあります。比較対照するのであれば、例えばメドック地区のカベルネ主体の赤ワインばかりを用意すればワインの比較は面白いでしょうが、食事と合わせることも考えると同じタイプのワインばかり揃えても食事の流れがうまくいかなくなってしまいます。結果として、食事を通すバランスが良く、かつ有意義な比較対照ができる構成にならなければなりません。
例えば2012年1月のボルドーがテーマの講座では、以下のようなワインを用意いたしました。
2004 Pessac-Léognan Blanc Ch. Latour Martillac
1995 Pessac-Léognan Blanc Ch. Latour Martillac
2006 Haut-Médoc Ch. Belgrave
2006 Haut-Médoc Ch. Cantemerle
2005 Berry’s Sauternes 375ml Ch. Doisy-Védrine
造り手は全てグラン・クリュで、水平(同じヴィンテージで、異なるワインを比較すること)、垂直(異なるヴィンテージで、同じ銘柄のワインを比較すること)を織り交ぜた内容です。
ワインが決まったら、ワインをどのような順番で、どのような料理と合わせるかを考えます。通常は泡、白、赤、甘口という流れになりますが、ワインの質とそれに合わせる料理を考えると必ずしもそのようにはなりません。
この例の場合、私が悩んだのは1995年のペサック・レオニャンの白ワインです。2006年の2つの赤ワインより、熟成したこの白ワインのほうが風味が強いのではないか...特にシャトー・ラトゥール・マルティヤックはボルドー地方の辛口白ワインとして高い評価を確立しています。レストラン講座の舞台はレストランです。料理は会場となるレストランの料理人の方々が作ってくださいますので、最終的には料理長と相談しながら料理を決めて行くことになります。
以下、実際に交わされた会話の一部をご紹介いたします。
中西「今回の講座のテーマはボルドーです。ワインはこの銘柄で(と言ってワイン・リストを料理長に差し出す。オザミ・サンカントヌフの杉原料理長はソムリエの資格を持っていらっしゃるので、話が早いです!)行きたいと思っています。」
料理長「今回はボルドーですか。料理はどうしましょうか?」
中西「そうですね。今回は赤が2006のオー・メドックが2種類あるのですが、メインは、シャトー・ベルグラーヴに合わせてアントルコート・ボルドレーズ(ボルドー風の牛ステーキ)にして頂きたいと思っております。悩んでいるのが、1995のラトゥール・マルティヤックの白とカントメルルの順番です。95のラトゥール・マルティヤックを最初に冷前菜と合わせるよりも、温前菜のほうに持ってきて、比較的メルロの割合が高くて柔らかいカントメルルを最初に何か肉系の冷前菜と合わせたほうが面白いかな、と思うのですが...」
料理長「ベルグラーヴとアントルコート・ボルドレーズですね。合うでしょうね。あとはどうしましょうか。最初にカントメルルと肉系の冷前菜で、次に魚系の温前菜にしましょうか?」
中西「...はい。(少し考えて)例えば、白に合わせてグラティネ(オニオン・グラタン・スープ)など出来ますでしょうか?(1月は寒いですし)温かい料理で、魚系も良いですが、香ばしい風味があるとワインとも相性が良いかな、と思います。」
料理長「グラティネですね。トリップ(牛の内臓ハチノス)入りで行きますか?」
中西「良いですね!ありがとうございます。では温前菜はラトゥール・マルティヤック白95と、トリップ入りグラティネで。あとはプルミエ(最初の冷前菜のこと)ですね。例えばパテですとか、肉系の冷前菜で...」
料理長「カントメルルとですね。メルロが多くて柔らかいのですよね?パテもありますけど、仔牛で作ったフロマージュ・ド・テット(通常は豚肉で作る、ゼラチン質の豚頭肉のゼリー寄せ)はどうですか?フォワ・グラのソースを添えて。」
中西「ありがとうございます!ではそれで、お願いします!」
...といった具合です。今回はカベルネ主体で力強いシャトー・ベルグラーヴをアントルコート・ボルドレーズで、というのが私の中でほぼ確定しており、まずメインから決まりましたが、料理の相談は毎回様々です。すんなり決まることもあれば、一度の話し合いで決まらずあれこれ考えることもあります。しかし料理が決まる瞬間は、興奮させられる時があります。例えば、私ひとりでは、仔牛を使ったフロマージュ・ド・テットなんてまず思い浮かびませんから!
ワインと料理の組み合わせで心を砕くことは、大きく以下の3つです。
1、ワインと合わせる食材
2、食材の調理法
3、ソース、付け合わせ
他にも気をつけるべきことはありますが、絶対に外せない点です。
さて、実際にレストラン講座が始まると、料理はプロに任せて、私はワインの状態の管理に気をつけます。どのワインにどのグラスを使うか、提供するワインの温度、デカンタージュの有無...グラスは事前に決めておきますので、当日は特に刻々と変化するワインの温度管理に細心の注意を払います。
レストラン講座ではもはや手に入らないワインをご紹介することも多いので、事前に料理長とワインのテイスティングを行うことはありません。当日、場合によっては試飲して頂くこともありますが、試飲の結果急きょソースを変更した、ということも過去に1、2度ありました。
いろいろ書きましたが、レストラン講座に限らず、私が一番伝えたいことは「ワインの魅力」です。嗜好品としての性質も持つワイン、100人中100人に満足して頂くことは難しいかもしれませんが、好みで無いワインにも、造り手の情熱が込められていて、生まれ育った風土を反映した物語があることを楽しんでいただければこの上ない喜びです。
この場を借りて、お忙しい中料理の相談に応じてくださる料理長、また実際に調理を担当してくださっている全ての料理人の方々、円滑に進めてくださるサービスの方々に感謝申し上げます。
毎回が一期一会のレストラン講座です。ご興味のあるテーマがございましたら是非ご参加ください!
このコラムを読まれて、ご意見・ご感想がございましたら下記メールアドレスまでご連絡ください。
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