- 2011-08-24 (水) 10:00
- ワインコラム
素晴らしいワイン造りとは、素晴らしいぶどう作りであるとも言えるでしょう。上質なワイン造りを目指す人たちは、いかに素晴らしいぶどうを収穫するかに心血を注いでいます。
農業であるぶどう栽培には、多くの困難が伴います。大雨や雹などの天候的要因もあれば、害虫も襲ってきます。今回は、害虫たちの中から、フィロキセラPhylloxeraについてご紹介いたします。
フィロキセラは「ブドウネアブラムシ」とも呼ばれる、体長1mmほどの小さな虫です。ぶどうの根に寄生し、樹液を吸い、ぶどう樹を死に至らしめる恐ろしい害虫です。
根に寄生するという特性上、この虫を直接攻撃することは難しく、19世紀の後半にはヨーロッパに蔓延し、多くのぶどう畑を死に至らしめました。21世紀になった今日でも、この虫を撃退する方法は見つかっておりません。
そう、今日でも、ぶどう栽培の専門家たちはこの虫と共存せざるを得ない状況なのです。
人はこの虫を攻撃できませんが、防御する術を身につけました。おかげで、フィロキセラが存在するぶどう畑でもぶどう栽培家はフィロキセラにやられることなくぶどう栽培を続けています。
その方法とは、「接ぎ木」です。
もともとフィロキセラはアメリカ大陸にいたようです。アメリカ大陸にもぶどうの樹はありましたが、フィロキセラにやられている様子がありません。そこで、アメリカ系ぶどうの台木(根の部分)にヨーロッパ系ぶどうを接ぎ木してみると、フィロキセラにやられることなく、ヨーロッパ系ぶどうの果実を得ることができたのです。
今日では、一部地域を除いて、ほぼ世界中全てのぶどう畑においてこの措置が取られています。
接ぎ木をしていないぶどう樹のことを「自根」の樹と言いますが、自根でぶどうを栽培できるのは砂の土壌の畑です。フィロキセラは砂地には生息できないためです。アメリカのワシントン州などがこれに該当するワイン産地です。
他に自根でぶどうを栽培できるのは、チリ、一部オーストラリアなどです。このような土地ではフィロキセラを外部から持ち込まれないよう、厳重に警戒していますが、徐々にフィロキセラが広がってきているようです。
オーストラリアのフィロキセラ・フリー・ゾーン
しかし世の中にはリスクを覚悟して、普通にフィロキセラがいる土地で自根でぶどうを栽培する強者がいます。
フランス、ロワール地方のアンリ・マリオネ氏や、ブルゴーニュ地方のフィリップ・シャルロパン・パリゾ氏など。正直、大切なぶどうの樹がいつフィロキセラにやられてもおかしくない状況で、愛情を込めてぶどうを育てています。やはり自根のぶどうには、ロマンがありますよね...
見つけるのは難しいと思いますが、自根のぶどうからできたワインを飲む機会がありましたら、ぶどう栽培者の想い、苦労をかみしめながら飲んでみてください。またひとつ、奥深いワインの魅力に惹き寄せられることでしょう。
Clos Yでは、9月4日のレストラン講座のテーマを「自根のワイン」とし、自根で栽培されたぶどうからできたワインを料理と共にお楽しみ頂きます。ご興味がございましたらご連絡ください。
このコラムを読まれて、ご意見・ご感想がございましたら下記メールアドレスまでご連絡ください。